連載910 間に合うのかトヨタ 「EV大転換」はもはや確実な未来に!(中)

連載910 間に合うのかトヨタ
「EV大転換」はもはや確実な未来に!(中)

(この記事の初出は11月15日)

 

EV生産をプラットフォームから見直す

 では、本題のトヨタの話に入る。
 先日、ロイターが配信をした『トヨタ、EV戦略見直し検討 クラウンなど開発一時停止』(10月24日)という記事は、その後、業界はもとより、あらゆる方面に大きな反響を巻き起こした。この日本版の記事の元記事は、『Toyota scrambling behind the scenes to reboot EV strategy』という記事だが、それによると、トヨタは2030年までにEV30車種をそろえるという従来計画の一部をいったん止め、今後の生産をプラットフォーム(車台)そのものから見直すというのだ。
 もう少し具体的に言うと、トヨタはテスラをベンチマークとして自社の生産プロセスを再評価し、「e-TNGA」(イー・ティーエヌジーエー」のさらなる改良、もしくは「e-TNGA」を捨てて新たなプラットフォームをゼロからつくる選択を迫られているというのだ。
 「e-TNGA」の「TNGA」とは、「Toyota New Global Architecture」の略で、4代目「プリウス」から採用されたトヨタの最新プラットフォーム及び車両開発のコンセプトを指し、「e-TNGA」はそのEV仕様である。トヨタでは、モジュール構造を採用しており、その組み合わせをもって、EV開発の効率化を図るとしてきた。
 ところが、いざ「TNGA」をEVに適用して製造を始めてみたところ、これではテスラや中国のEVには勝てないと判断したと考えられる。

 

世界の新車販売は10台に1台がEVに

 ロイター記事の衝撃に追い討ちをかけたのが、『トヨタとテスラ、「1台の格差」8倍に 初の純利益逆転』(11月7日)という日本経済新聞の記事だ。
 この記事によると、2022年7~9月期決算で、トヨタの連結純利益は4342億円。これに対し、テスラは4542億円で、四半期ベースで初めてトヨタを逆転した。当該四半期にけるトヨタの販売台数は262.5万台。一方のテスラは34.4万台だから、トヨタの約8分の1に過ぎない。それでいて、利益がほぼ同じということは、1台あたりの利益は約8倍ということになり、その差はあまりにも大きい。
 すでに、テスラは株価の時価総額でトヨタを超えている。テスラの時価総額は2022年10月末時点で日本円にして約100兆円であり、トヨタの32兆円の約3倍に達している。
 このような背景から、トヨタはついに本格的かつ根本的なEV化に舵を切らざるをえなくなったとみて間違いない。
 これまでトヨタをはじめとする日本の自動車メーカーは、EV化はずっと先、EVはそう簡単には普及しないとみていた。しかし、その考えは甘かった。
 環境ニュースサイトの「CleanTechnica」(クリーンテクニカ)によると、2022年8月の世界のPHVを含むEVの車両登録台数は、前年同月の1.6倍となる84万7000台を記録。ガソリン車やディーゼル車を含む総車両登録台数の15%を占めるまでになった。EVだけでも11%と1割の壁を超えてしまった。
 つまり、世界の新車販売は、すでに10台に1台がEVになったのだ。
 ボストン・コンサルティング・グループは、今年の6月、世界の新車販売(大型商用車などは除く)に占めるEVの割合は30年に39%に達するという予測を公表した。これは、従来の予測を1年で11ポイントも上回る上方修正である。

(つづく)

この続きは12月14日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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