連載914 デジタル、サッカーW杯、国防問題、円安——。メディアもわれわれも時代の変化についていけない!(下)

連載914 デジタル、サッカーW杯、国防問題、円安——。メディアもわれわれも時代の変化についていけない!(下)

(この記事の初出は12月6日)

 

サッカー選手の国際化はどんどん進む

 さて、私がPCに向かって右往左往しているなか、日本中は歓喜に沸き立っていた。サッカーW杯のリーグ戦の最終戦で、スペインを破って、決勝トーナメント進出を決めたからだ。
 「サムライブルーがブラボーに躍動!」「ドーハの奇跡」「ドーハの歓喜」(悲劇から29年ついに歓喜に)、そして「三苫の1ミリ」が、それこそ、1日中テレビで流れた。
 現在、この原稿を書きながら、決勝トーナメントの対クロアチア戦を見ているが、まさに、時代は変わったと思うしかない。もはや日本のサッカーは「奇跡」ではないと言えるからだ。(とはいえ、クロアチアにはPK戦で破れた。なぜ、今大会ミスが目立つ吉田麻也を出し続けたのだろうか? 案の定、PKも失敗した)
 日本の進撃が奇跡ではないと思うのは、メンバーの国際化がすごい点だ。国自体はガラパゴス化しているというのに、サッカーをはじめとするスポーツ界だけは、国際化が進んでいる。
 スペイン戦先発イレブンのうち8人が、代表26人のうち19人がヨーロッパ各地でプレーしている選手たちである。このうち、ドイツの「ブンデスリーガ」にいる選手が8人ともっとも多かったので、ドイツに勝ったのは奇跡とは呼べないだろう。

ルールは変わるのにメディアは変わらない

 もう一つ、サッカーが大きく変わったと思うのは、今回から交代枠が3人から5人になったことだ。これが、ドイツ戦でもスペイン戦でも、日本の味方をした。
 森保采配が的中したと絶賛しているメディアがあるが、5人交代制になれば、後半勝負というのは当然のように取られる戦略であり、森保監督が格段に戦略すぐれていたわけではない。
 5人交代制になったことは、ゲームの展開にスピード感とダイナミズムを与えた。見ていて、昔より退屈しなくなった。ただし、5人交代制になって、実際の得点数が増えるという兆候は、まだはっきり見えてこない。
 スポーツのルールは、時代とともに変わっていく。なのに、「日本サッカーは日々成長していく。今後、ますます発展させるためにもなにが必要か考えるいい機会になった」などと言っているメディアがあるが、そんな認識は完全に時代遅れだ。
 ナショナリズムだけで、自国チームの応援と自慢を繰り返すメディアに毒されると、冷静な判断力を失ってしまう。

報道量が減ったウクライナ戦争のいま

 サッカーW杯の最中もウクライナ戦争は続いている。プーチン大統領の狂気は止まらない。サッカーW杯の報道の大洪水のなか、めっきり報道量は減ったが、ロシアは依然として執拗にウクライナを攻撃している。
 ロシア軍は、東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の1つバフムートの掌握を目指して攻勢をしかけているし、南部ヘルソン州でもウクライナ軍が奪還したドニプロ川の西岸地域に向けても再度攻撃を繰り返している。
 その一方で、ウクライナ軍の一部は、ロシアが支配するドニプロ川の東岸地域に到達したとする動画がSNS上に公開された。
 いずれにしても、ロシアは劣勢であり、プーチンはいまや破れかぶれになっている。そのため、厳しい冬の到来にあわせて、ロシア軍がウクライナ全土で全面的な反転攻勢に出るという話が伝えられている。
 前記したバフムートは、鉄道や幹線道路などの交通の要所で、ウクライナ軍の一大軍事拠点である。ロシアはここを落とし、ウクライナのインフラを完全に止めて、厳冬の間にウクライナ人をギブアップさせようというのだ。

現時点での「休戦」などありえない

 いまだに、「休戦をすべき」という声があるが、現状ではその条件が見えない。プーチンが負けを認めるわけがないし、ウクライナも領土を奪われたままで停戦に応じるわけがない。それなのに、いまだに「休戦」「停戦」を唱える人々がいる。
 実際のところ、ドイツが水面下で仲介役となっていた休戦協議は、まったく進展せず、決裂した模様だ。
 先日、ドイツ大統領フランク・ヴァルター・シュタインマイヤーは、ウクライナとロシアの間の休戦協議を拒否する旨の発言をした。
 「休戦を勧めるのは軽率だ。この時点で休戦すれば不当な行為になる。ウクライナの休戦はロシアが占領地を自分たちのために維持することを意味する。これは、国境侵犯、国際法の蔑視、土地の強奪が容認されることになる」
 どこまでも人命が軽視される。それが国際政治の冷徹な現実だ。


(つづく)

この続きは12月22日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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