連載915 デジタル、サッカーW杯、国防問題、円安——。メディアもわれわれも時代の変化についていけない!(完)
(この記事の初出は12月6日)
「迎撃のみ」から「反撃」への方針転換
ウクライナ戦争、そして高まる台湾有事、さらに、北朝鮮のミサイル連続発射を受けて、日本の安全保障環境は大きく変化した。
そのため、政府は、敵のミサイル発射拠点を攻撃する「反撃能力」(この前まで「敵基地攻撃能力」と言っていた)を保有する方針を固め、防衛予算も大幅に増額されることになった。
この状況をメディアは、たとえば、『「迎撃のみ」から「反撃」も可能に』などと伝え、新聞、テレビでは論争が続いている。それを見聞きしていると、あまりの馬鹿らしさに、とことん呆れる。
まず、これまで日本が守ってきたという「専守防衛」はただの絵空事なのに、まるでそれができるかのような前提で話す左側の人々の頭の中が理解できない。「守り」と「攻め」は、同じもの、一体化したものだ。どちらか片方だけをやるなどできるわけがない。
それなのに、それができるとしてきたのが「専守防衛」論であり、これまでのミサイル配備は、「迎撃」のみというフレコミだった。だから、今後は「反撃」をできるようにしようというのだ。
具体的には、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」(国産、三菱重工製)の改良や、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入を指す。つまり、日本も長射程で、敵国にまで届くミサイルを持つということである。
コストなら「核武装」のほうが安上がり
ところが、このことをめぐって、それは相手国に対する攻撃能力であり、先制攻撃が可能なのだから「専守防衛に反する」と言う人々がいる。しかし、戦争の場合、先に攻撃しようが後から反撃しようが、そんなものはみな攻撃であって区別をつけられない。また、相手が攻撃を仕掛けてくるのをキャッチして反撃するというが、それを見極める能力が日本にあるとは思えない。
北朝鮮だけを想定しても、常に監視するためには、低軌道の監視衛星が最低でも3基は必要だ。しかも、これまでの北のミサイル発射情報は、すべて韓国・アメリカ経由である。
そもそも日本は、現代の戦争の主役であるドローンやミサイルをまともに開発できないうえ、サイバー戦争にいたっては、そのノウハウも技術もない。それなのに、単に長射程のミサイル配備で反撃できると考えるだけでも、相当頭がおかしいと言わざるをえない。
それにトマホークは、防空システムが機能しない防衛後進国で有効な兵器で、アメリカはすでに旧型兵器として廃棄しようとしている。それに敵基地攻撃をするには、ミサイルより、細かな回避軌道が取れ、ステルス性がある無人攻撃型ドローンがもっとも有効で、イランやトルコでさえ自国開発している。
さらに、コストの面から言えば「核武装」のほうがトマホーク購入より安くつくうえ、「抑止」の効果ははるかに高い。岸田政権と自民党は、まともに日本の安全保障を考えているとは思えない。本気なら、核武装やドローン開発、サイバー攻撃能力の向上などに焦点を縛らなければおかしい。もっとも、野党や左側は、相変わらず、もっとはるかに頭がおかしい。
円高に転じてアナリストの予想が一変
そうこうしているうちに、経済面では円安が一転して円高になり、ドル円は現在(12月6日)136円となっている。ドル円は10月21日に151円を付け、約32年ぶりのドル高・円安水準を更新したが、その後、約6週間で15円もドル安・円高が進んだことになる。
そのため、アナリストたちの論調がコロッと変わった。「ドル円はこの先、米経済指標の強弱感や、米金融当局者の発言に、敏感な反応を繰り返すが、全体基調としては緩やかなドル安・円高が進む」と言うのだ。
「日本が金利を上げない、緩和を止めない限り、160円もある」と言っていた人々が、そう言うのだから、専門家などこの世にいないと思ったほうがいい。
ネットなどしなくても人生は変わらない
わかっていることは、インフレはまだまだ止まらず、日本の場合、今後、それがさらに悪化するということだ。どんな政策を取ろうと、少子高齢化には勝てず、経済衰退は止められない。
それが全体基調で、そのうえで、時代は日々刻々と変わっている。
ネット空間などなく、朝起きればコーヒーを飲んでテレビを見、新聞を読んで、夜には酒場で世相談義をしていた時代がなつかしい。いまや、常時ネットに接続して寝るヒマもない。日本がクロアチアに負けた後も、こうして原稿を書き、それをこれからネットにアップして、配信指定をして、私はようやく寝ることができる。
読者のみなさんも、どうかネットをやり過ぎず、やったとしても、私のようなアカウント乗っ取り被害に合わないように細心の注意をしていただきたい。PCやスマホに常時接続されて生きることは、本当に虚しい。できれば、ネットやニュースなどに接しないで暮らすことを考えてみてほしい。
そうしてみれば、いくら時代が変わろうと、人生そのものは変わらないとわかるだろう。ただ、それが私にはできない。
(つづく)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。