第3回 小西一禎の日米見聞録 米国の選挙で、結果確定に時間がかかるワケ
11月 8 日に行われた米中間選挙の結果が1カ月後の12月6日、ようやく確定した。最後まで残っていた南部ジョージア州の上院選は、決選投票で民主党の現職がトランプ前大統領の推薦を受けた共和党新人を破り、最後の1議席に滑り込んだ。これによって、上院は民主51、共和49、下院は共和222、民主213の勢力図が固まった(その後、民主の上院議員 1 人が離党)。上下両院での民主党敗北が事前予測されていただけに、上院を制したことで、バイデン大統領は向こう2年間の政権運営において、かろうじて主導権を維持した形だ。
勝敗の行方が決まるのと、開票確定にかなりのタイムラグが生じるのは米国では日常茶飯事。さらに、開票の確定どころか、選挙結果の大勢が判明するまでにも時間がかかるのも、恒例行事となっている。記憶に新しい2020年の大統領選で、AP通信やニューヨーク・タイムズ、NBCなど大手報道機関がバイデン氏勝利を報じたのは、投票から4日目のことだった。2000年の大統領選では、僅差となったフロリダ州での再集計を巡る連邦最高裁の判断を経て、大接戦の終止符は36日後にようやく打たれた。
日本の国政選挙における迅速な開票作業、当確(当選確実=ある候補の当選が確実になること)を巡るメディアの報道に接してきた人にとって、開票結果が確定するまでに 1 カ月も要する米国の選挙は、奇異に映るのではないだろうか。日本と比べて、いくら国土が広かろうと、有権者が多かろうと、あまりにも時間がかかり過ぎではないか、との疑問が浮上するのは当然だろう。どうして、こんなことが起きるのか。
8時に勝敗の帰趨、翌日に結果確定
日本では、まだ開票作業が始まっていない投票終了の午後 8 時と同時に、各報道機関は、事前に行った世論調査、期日前・当日の出口調査、それらに取材を加味した総合的な判断に基づき、「自民、歴史的圧勝の見通し」などと勝敗の帰趨をいち早く国民に伝えるとともに、選挙区ごとに候補者の当確を続々と打ち込み、人数を積み重ねていく。以前はよく見られた当確判定ミスも、最近はあまり目にすることはない。しかし、出口調査の精度については、昨年の衆院選から議論になっており、別の機会に触れる。
投票日の投票時間は、繰り上げが行われる一部の離島などを除き、投票時間は同一で、投票用紙や集計方法で自治体による大差はない。ただ、自治体による開票作業のスピードには大きなばらつきがある。有権者の数はもとより、接戦時の立会人の「物言い」や集計ミスなどで、アクシデント的に結果確定に時間がかかる自治体がどうしても出てくる。開票作業が毎回遅く、報道機関から常にマークされている自治体もある。それでも、最も手間がかかる参院比例代表ですら、投票日翌日の昼までには開票を終える。そして、翌日中には選挙の運営やデータを一元的に管理する総務省が全国の開票結果を集約する。いわば、中央集権型で選挙が展開されている。
選挙否定派、陰謀論の台頭で慎重に
これに対し、50の州によって連邦共和国が構成される米国では、国家の仕組みが根本的に異なっている。選挙においても同様で、投票方法や集計方法が州によって異なるどころか、郡によっても違いがある。日本では身体に重い障害がある人に限られている郵便投票が、コロナ禍の米国で一気に普及が進み、期日前投票に臨む人は増加した。ただ、開票日以降に届いた投票を有効とする地域があったりして、開票日になっても集計作業を始められない地域もある。さらに、僅差の場合による再集計や今回のジョージアのように決選投票の実施を定めている州もあり、どうしても開票作業に時間がかかってしまうのだ。連邦政府には、総務省のような選挙を管理する組織は存在しない。
加えて、一般的には理解できない「選挙が盗まれた」などとする主張を繰り広げ、民主主義の根幹である選挙そのものを否定する勢力や陰謀論の台頭を受け、開票作業は以前よりもさらに慎重に時間をかけて行っているとの見方もある。2 年前の大統領選で、選挙結果を不服とした支持者らが州の幹部や選挙責任者を脅迫したり、開票所の立会人がどちらの政党に属しているかで混乱をきたしたりしたケースがあった。国家の分断が一段と進む中、2 年後の大統領選でも開票・集計での混乱は必至だろう。
(了)
小西 一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト。慶應義塾大卒後、共同通信社入社。2005年より本社政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い休職、妻・二児とともにニュージャージー州フォートリーに移住。在米中退社。21年帰国。米コロンビア大東アジア研究所客員研究員を歴任。駐在員の夫「駐夫」として、各メディアへの寄稿・取材歴多数。「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。執筆分野は、キャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、メディア。著書に『猪木道――政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。
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