連載916 防衛費増強が虚しくなる
自衛隊の絶望的な「ドローン」立ち遅れ(上)
(この記事の初出は2022年11月22日)
台湾有事の緊迫化、北朝鮮のミサイル連射、ウクライナ戦争などを契機として、日本はついに防衛費を増強することになった。政府は、GDP比2%を目標とし、今後5年間、現行の防衛予算を倍増させる。その額、約48兆円という。
しかし、そのカネをいったなにに使うのだろうか?
いま議論されている「ミサイル防衛」「敵地攻撃能力」などは、もはや時代遅れではないだろうか。ウクライナ戦争でのドローンの大活躍を見るにつけ、かつての軍事常識が通用しないことをつくづく思い知る。
いまや、戦争の主役はドローンになった。
ところが、自衛隊はこれまでドローンを軽視、まったくと言っていいほど導入していない。これでは、日本防衛などできるわけがない。
ドローンがウクライナ戦争の主役になった
ウクライナ戦争は、これまでの軍事常識を次々に変えている。ハンディタイプの対戦車ミサイル「ジャベリン」などが戦車と歩兵部隊による進軍を阻止できること、また、ドローンが兵器として圧倒的に優秀なことなどが、次々に明らかになっている。
とくにドローンにいたっては、連日のように、その働きが報道され、たくさんの動画がSNSにアップされている。そこで私も、そのうちの何本かを興味津々で見て、そのすごさに正直驚いた。
ウクライナ軍が攻撃ドローン「R18」で爆弾を投下し、地上のロシア軍がうろたえる様子。イランがロシアに提供したという自爆型ドローン「シャヘド136」(いわゆるカミカゼ・ドローン)が自爆する様子。さらに、アメリカが提供した「ドローンバスターズ」の電波妨害によって、ロシアのドローンが機能不全に陥る様子などを見ると、これがいまの戦争だと改めて認識させられる。
いまや戦場は、人間同士が戦うところではなく、ミサイルやドローンといった無人兵器が、攻撃し合う場と化している。
黒海艦隊に大打撃を加えた水上ドローン
私がいちばん認識を改めさせられたのは、ドローンと言っても「空」だけでなく、「水上」も「水中」もあることだ。「水上ドローン」はいわば無人小型ボート(SUVと呼ぶ)で、「水中ドローン」は無人小型潜水艦と言ってよく、敵艦船の様子を偵察・監視するばかりか、攻撃型のものは敵艦船に突っ込んでいき、それを爆破・破壊する。
11月になってロシアは、ウクライナの農産物に対する輸出合意を一方的に破棄し、その後、狂ったようにウクライナの都市とインフラにミサイル攻撃を仕掛けたが、これは、ウクライナの水上ドローン攻撃によってセバストポリ港の黒海艦隊が大打撃を受けたことの報復だ。
この水上ドローン攻撃の成功は、軍事専門家によると、航空機が戦艦を初めて撃沈した「タラント空襲」(1940年)や日本海軍による「真珠湾攻撃」(1941年)に匹敵する、軍事史のターニングポイントになるという。
映像には爆発の様子や閃光が写っていた
なぜ、ターニングポイントになるのだろうか?
それは、巡洋艦モスクワ撃沈後に黒海艦隊の旗艦となった最新鋭フリゲート艦アドミラル・マカロフと掃海艇のイヴァン・ゴルベッツが航行不能となったと推測される大打撃を受け、さらに港湾施設の一部も破壊されたからだ。
ロシア国防省の発表では、「9機のドローンと7隻の自爆型水上ドローンの攻撃を受けたが損害は軽微だった」となっているが、実際はそうではなかった。
SNSにアップされた2つの映像を見ると、ドローン軍団はマカロフからの銃撃や砲撃をもともせず、高速で突撃している。そして、爆発の様子や爆発の瞬間と思える閃光も写っていた。
わずか十数機のドローンが、最新鋭の軍艦に大打撃を与えたのである。これを画期的な出来事と言わずになんと言うのだろうか。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。