連載920 ポルトガルが示す日本の未来: 繁栄を誇った国家はなぜ衰退していくのか?(上)

連載920 ポルトガルが示す日本の未来:
繁栄を誇った国家はなぜ衰退していくのか?(上)

(この記事の初出は2022年11月29日)

 もはや、日本経済が1980年代のような輝きを取り戻すことはありえない。「もう日本の復興はない」と、誰もが思う事態が進行している。昨年はまさにそれがはっきりした年だったと言っていいのではなかろうか。
 そこで、歴史をひもといてアナロジーを探すと、かつての世界帝国ポルトガルに行き当たる。なぜ、繁栄を誇った国家は衰退するのか?
 その理由はいくつか考えられるが、はっきりしているのは、 経済が衰退すれば国民性も変わるということだろう。いまの日本人は、バブル時代にはあった「イケイケドンドン」「モーレツ」「24時間戦えますか」などと言われた気質を完全に失っている。身の回りの狭い世界をそのまま受け入れ、おとなしくおだやかに暮らすことで満足しているように見える。

 

バーゲンセールと化した日本の不動産

 円安が急激に進んだので、外国資本による「日本買い」が注目を集めている。外国人観光客による「爆買い」「インバウンド消費」が戻ってきたという話ではない。中国人を中心としたアジアの富裕層が、日本の不動産を買い漁るようになったという話である。
 正直、ここまで円安になると、外から見れば、日本の不動産はまさにバーゲンセールの様相を呈している。
 たとえば、大阪。外国人観光客に人気の大阪・黒門市場から歩いてわずか30秒の所にある11階建て30室のマンションは、1棟まるごと7億5000万円で中国人に買われようとしている。先日、テレビ(FNNプライムオンライン)でその状況を報道していたが、関西には中国人の投資家向けに新築物件を販売している不動産会社がいくつかある。
 現在、世界でただ一国と言える厳しいコロナ鎖国をしている中国なので、投資家の来日は難しい。しかし、リモートによる内覧で、物件は売れていくという。
 人気なのは京都もそうだ。こちらは、歴史に裏付けされた物件が人気で、古民家、日本旅館、町家などが人気を集めている。いまや日本の伝統を買い漁っているのは日本人ではなく、外国人である。
 もちろん、東京の不動産も海外投資家に人気がある。ベイエリアの高級物件は、借り入れの金利や円安を加味した利回りが3%を超えているので、ロンドン、シンガポール、香港より投資価値が高くなった。また、北海道はスキーリゾートとしてニセコが注目されたように、別の意味で人気がある。
 いずれにせよ、日本の不動産は、いま、海外から見ればバーゲンセールと言える。

日本に進出して拠点を構え日本人を雇う

 私の知人で、中国研究の第一人者である近藤大介氏(講談社、ジャーナリスト)は、日中関係はいまや大きく変わり「双方向の時代」になったと言っている。
「これまでは、日本企業が一方的に中国に進出していました。しかし、いまや、中国企業も日本に進出して、日本に工場を建て、東京や大阪のオフィスビルに会社を構え、日本人を雇用する時代になっています。
 もちろん、彼らが日本市場を見据えているということもありますが、米中対立の時代に日本を避難地にして、日本からアメリカ・EUへということにすれば、ほとんど関税がかかりませんから。そういった意味でも日本市場を重視しているのです」
 たしかに、ハイアールは、10年前に三洋電機の白物家電部門を買収し、本格的に日本に進出。これまで、日本の家電メーカーなどで活躍していた技術者を積極的に雇用してきた。ハイアールに続いて、中国の多くの企業が日本に進出するようになった。いまや世界企業となった「TikTok」も日本に拠点を置いている。
 大阪には海外企業の日本進出をサポートする団体があるが、この20年で、この団体を通じて大阪に進出した企業は620社を超えるという(NHK『クローズアップ現代』の報道)。
 日本の労働力は安価で、個々の労働者のレベルは高く、その上よく働くので、”お買い得”なのだという。たしかに、そう言われると納得するが、それは、相対的に日本が「割安」になったということだ。
 まさに、「日本売り」は、日々刻々と進んでいる。


(つづく)

この続きは1月11日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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