連載922 ポルトガルが示す日本の未来:
繁栄を誇った国家はなぜ衰退していくのか?(中2)
(この記事の初出は2022年11月29日)
民主制による資本主義自由経済が繁栄をもたらす
彼らは国家のシステムを大別して二つとした。
一つは、権力が社会に広く配分され大多数の人々が経済活動に参加できる「包括的制度」。民主制による資本主義自由経済がこれに当たると言える。もう一つは、限られたエリートに権力と富が集中する「収奪的制度」。こちらは、独裁制、貴族制、共産党一党支配体制などの下での統制経済と言えるだろう。
前者の下では、法の支配が確立し、人々の所有権・財産権が保護され、技術革新が起こりやすい。しかし、後者の下では、これと反対のことが起こる。
「経済的な成長や繁栄は包括的な経済制度および政治制度と結びついていて、収奪的制度は概して停滞と貧困につながる」と、彼らは述べている。
つまり、近代においては、民主体制で資本主義自由経済が機能しなくなると、国家は衰退し、貧しくなっていくのだ。
統制経済、社会主義経済となって衰退へ
この本の考察を日本に適応してみると、第2次大戦後の日本は一気に民主化され、その下で資本主義自由経済が機能する国家となった。このことが、その後の画期的な経済成長の原動力となったと言える。
ところがバブル崩壊後の日本は、不良債権の処理のために国家の借金がかさみ、それとともに政治・経済システムはどんどん「収奪的制度」のほうに移行してしまった。日本の資本主義から自由さが失われ、縁故資本主義による統制経済、社会主義経済となってしまった。
アベノミクスのことを「新自由主義」などと、いまだに言っている“お花畑”エコノミストがいるが、安倍政権が実行したのは異次元の金融緩和という金融市場の統制であり、これによって、日本は中国よりひどい国家社会主義経済国家になった。
いまや日本には、完全な民間企業はないも同然だ。名だたる日本企業は、日銀に株を買われたために、「国営企業」と化している。
国債は際限なく発行され、それを日銀が引き受ける「財政ファイナンス」が公然と行われている。こんなことは、フツーの資本主義国では起こりえない。独裁政権のような国でないと起こらない。なぜなら、法の支配を完全に無視しているからだ。
いまの日本は、国家が単にカネを刷って、それで政府を運用し、さらに国民に配っているだけの国だ。独裁国家の末期によくある「バラマキ政治」が行われている。かつてのアルゼンチン、最近のベネズエラと同じだ。これでは、経済衰退が加速するわけである。
コスト計算ができない愚かな原発停止要請
日本経済の衰退を決定的にしたのは、アベノミクスだと言える。ただし、東日本大震災も大きな原因、きっかけとなった。あのときの原発と東電へ政府の対処を見て、私は、もはやこの国に資本主義経済はなくなったと痛感した。
「フクシマ」原発のメルトダウン事故は、日本全体に大きな衝撃をもたらした。その衝撃のあまりの大きさのせいか、冷静さを失った当時の菅直人首相は、中部電力に浜岡原発の全面停止を要請した。
これは、フクシマと同程度の津波が来た場合のことを考慮しての措置とされたが、どう考えても合理的な判断ではなかった。
というのは、フクシマを教訓とするなら、津波を防ぐためにはさらに高い防御壁をつくればいいだけの話だからだ。原発政策を大転換して、すべてを廃止するなら別だが、浜岡原発だけを止める意味がない。意味がないばかりか、莫大なコストがかかる。
もし、防御壁をつくるなら、その費用は100~200億円程度で済んだ。ところが停止したために、急遽、火力発電所を再稼働することになり、天然ガスを大量に輸入しなければならなくなった。その費用は、なんと防御壁の何十倍、約2500億円もかかることになり、電気料金を引き上げるほかなくなってしまったのだ。いま思うと、本当に愚かとしか言いようがない。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。