連載925 防衛費増額だけでは日本は守れない。
なぜ、日本の防衛はここまでダメになったのか?(上)
(この記事の初出は2022年12月13日)
「反撃能力」の保持、そして、「防衛費」の増額をめぐって、与党内も国会全体も大荒れだ。メディアの報道も一貫していない。すでになにもかもが決まっているかのように報道されているが、国防議論自体があまりにも絵空事であり、しかも議論の順序が逆だ。
どうやって日本を守るのか、その具体的な方策が明確でないままの増額にどんな意味があるのか?
そこで、今回は、現在の日本の安全保障、防衛について、いったいどうして、こんなお寒いことになってしまったのかを考えてみたい。
アメリカ全面依存の安全保障は通用しない
世界中で日本ほど、国家と国民の安全をどうやって守るかについて、国民も政治家も無関心で、まるで他人事のように考えている国はないだろう。世界がグローバルなワンワールドなら別だが、いまところ、世界には国家と国境があり、そのなかでしか安全保障は成立しない。
しかも、日本は島国とはいえ、周囲に友好国は台湾ぐらいしかない。ロシアも中国も北朝鮮も、海を隔てているとはいえ、日本の安全保障を脅かす存在だ。
とくに北朝鮮にいたっては、日本の方向に向けたミサイルの発射を繰り返している。さらに、中国の習近平政権が3期目に入り、台湾を武力併合する可能性が高まっている。
こんな現実、脅威があれば、おそらくどんな国家も防衛力強化を図る。軍事的なバランスを維持しなければ、安全保障は担保されないからだ。
同盟を結んでいるのだから、日本の安全はアメリカが担保してくれるという考えは、ウクライナ戦争を見ても明らかなように、いまはもう通用しない。
財源が明確でない増額に国民は猛反対
したがって、岸田政権が前政権から引き継いで実現させてようとしている「反撃能力」(ついこの前まで「敵基地攻撃能力」と言っていた)の保持は間違っていない。2023年から5年間の防衛費を、これまでの約1.5倍となる総額43兆円に増額するという方針もおおむね正しいだろう。
しかし、その中身となると、首を傾けざるをえない。まず、「反撃能力」を持つとしながら、「専守防衛」を維持するということ自体が矛盾している。次に、なにに予算を割くのかという中身を吟味もせず、ただ増額だけを決めるというのは順序が違う。
しかも、岸田首相は増額の財源をはっきりさせず、増額のうちの1兆円を増税でまかなうことだけは表明してしまった。これには、世論が猛反発、与党・自民党内でも反論が続出した。メディアにおける論議も紛糾し、いまだに収束がついていない。
先月のFNNの世論調査(11月12、13日実施)では、岸田政権が目指す防衛費の増額を所得税や法人税の増税でまかなうことについて「賛成」13.2%、「どちらかと言えば賛成」16.8%に対し、「反対」45.9%、「どちらかと言えば反対」20.1%だった。じつに66%が「ノー」を示していたのである。
「反撃能力」保持なのに「専守防衛」維持?
世論がどうであろうと、「反撃能力」を持つことと防衛費の増額は既定路線となっている。年末に政府が策定する「国家安全保障戦略」の3文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)には、すでに、反撃能力の保持が明記されていることが明らかになっている。
ところが、この反撃能力というのは、自民・公明両党の合意によって、「必要最小限度の自衛の措置」などと定義され、憲法や国際法の範囲内で行使されるとしたうえで、「先制攻撃」は許されないとして「専守防衛」の考え方に変わりがないと強調されている。
まったく、耳を疑うとはこのことだろう。こんな机上でしか成立しない理論を国家の安全保障の根本に据える国など、この世界のどこにもない。そもそも専守防衛などというのは、現実的にありえない。
防衛も攻撃も戦うなら同じことだからだ。「反撃できなければ抑止力にはならない」のは自明の理であって、こんなことを国会やテレビ番組で議論するのは無意味だ。なのに、それをやっているのだから、結論など出るわけがない。
こんな不毛な議論より、現実的にどうやって日本を守るか、そのためにどれほどの「攻撃能力」(わざわざ反撃能力などと言う必要はない)=「抑止力」を持つかを議論しなければならない。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。