連載938 ゼロコロナ失敗で中国経済大減速! どうなる?「米中対立」と「中国デカップリング」 (上)
(この記事の初出は2022年12月27日)
日本では、ゼロコロナ政策を大転換した中国の状況を揶揄した報道が多い。感染者が激増して経済活動にブレーキがかかり、このままでは回復は難しいと盛んに喧伝されている。それでなくとも、「米中対立」(新冷戦)は激化し、企業の「脱中国」(中国デカップリング)の動きも加速している。
はたして来年、中国はどうなっていくのか? 日本で言われているように、衰退が間違いないなら、その影響をもっとも受けるのは日本にほかならない。
「ゼロコロナ政策」をやめたら感染爆発
北京の郊外に、日本の半導体大手ルネサスエレクトロニクスの主力工場がある。この工場では、従業員に新型コロナウイルス感染者が相次いだため、16日から19日まで操業を停止せざるをえなくなった。その後、操業は再開したが、現在もなお新規感染者が出ているという。
中国政府が「ゼロコロナ政策」を転換した影響は、日系企業にまで及んでいるのだ。
中国政府が突然、方針転換したのは、全土に広がった抗議デモを抑えきれなくなったからだ。もちろん、「ゼロコロナ」より「ウィズコロナ」のほうが経済は回る。そのため、北京はいつかは方針転換しなければならないと考えていた。
つまり、抗議デモはその格好の機会であり、習近平政権は方針転換の理由を「落ち込んだ景気を回復させるため経済活動を優先する」とした。
しかし、この方針転換は裏目に出た。感染者が一気に増え、会社や工場への出勤者や街の人出は激減してしまったからだ。また、感染を恐れた未感染者は外出を控えるようになった。このため、かえって経済が回らなくなってしまったのである。
この混乱状況を受けて、主要な金融機関は10~12月四半期の中国の経済成長率の見通しを下方修正した。たとえば、UBSやANZ(オーストラリア・ニュージーランド銀行)は、いずれも2.7%とした。中国の四半期の経済成長率が、ここまで下がったことはここ20年間なかったことだ。
減速に追い打ちをかけたロックダウン
コロナ禍により、この3年間の中国の実質GDP成長率は、大きく落ち込んだ。IMFの統計を見ると、2019年までの30年間で5%を切ったことがなかった成長率は、2020年には2.24%を記録した。ただ、翌2021年は8.08%と回復した。しかし、これは前年の落ち込みからの回復(前年比)だから、実際はそこまで回復したとは言えない。
そして、今年(予測)は、なんと3.21%と低迷してしまったのである。
2020年、コロナ禍が始まった年、新型コロナウイルスの発生地とされる武漢では、人類の歴史上もっとも厳しいロックダウンが行われた。これによって感染拡大が止まり、中国政府はコロナを制圧したと宣言した。
しかし、ロックダウンでいったん止まった経済は回復しなかった。2021年はなんとか持ち直したものの、今年に入って感染力が強いオミクロン株が流行すると、ゼロコロナ政策の有効性は一気に低下した。
今年の夏、上海はなんと2カ月間もロックダウンされた。その影響は、中国全土に及び、中国経済は大きく減速することになった。そして、ここにきてのゼロコロナ解除による混乱である。
それでなくとも、中国経済はいくつもの大きな問題を抱えている。そこに襲ってきたゼロコロナ政策の転換に伴う混乱だから、中国はこのまま沈んでしまうという見方も出ている。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。