連載940 ゼロコロナ失敗で中国経済大減速! どうなる?「米中対立」と「中国デカップリング」 (下)
財の輸出額に占める中国のシェアは上昇中
先端半導体に象徴されるように、西側各国は、経済安全保障の観点から、中国への依存度を低下させるようになった。日本では、先般成立した経済安全保障推進法のもとで、半導体、レアアースなどの中国依存度の引き下げが目指されるようになった。
しかし、いくらそう志向しようと、1度出来がってしまった中国中心のサプライチェーンからの脱却は相当困難だ。とくに、家電、家具、服、雑貨、加工食品などの日常品にいたっては、「世界の工場」となった中国の製品をシャットアウトすることは難しい。なにより、中国に替わる生産の代替地がない。
このことをはっきり示すのが、「国連貿易開発会議」(UNCTAD)のデータだ。それによると、世界の財(製品)輸出額に占める中国のシェアは、2019年の13%から2021年には15%へと上昇している。コロナ禍の影響は、ここにはない。
その一方で、アメリカのシェアは8.6%から7.9%へ、日本のシェアは3.7%から3.4%へ、ドイツのシェアは7.8%から7.3%へとそれぞれ低下している。
世界中の人間が、いま中国製品なしには暮らせないのである。
内製化した世界の工場と欧州を結ぶ鉄道路線
中国は、かつては世界中から資源、材料、部品を集めて、それを安価な労働力で組み立てて製造する「世界の工場」だった。しかし、いまは国内でほとんどの資源、材料、部品を調達できるようになり(つまり「内製化」が進んで)、一貫した製造サプライチェーンを持つ「世界の工場」になった。
これは画期的なことで、かつて加工貿易で成り立っていた「世界の工場」の日本とは違っている。
中国の「世界の工場」ぶりを象徴するのが、出荷されるコンテナの多さだ。その数はもちろん世界一。コロナ禍で物流が滞ったとき、中国のコンテナ船の大群が、ロサンゼルス港の湾外に釘付けになったニュースを見た人も多いと思う。
現在、中国発の物流の最大の恩恵を受けているのは、欧州である。というのは、中国と欧州を結ぶ鉄道路線が貫通しているからだ。この路線を毎月2万両のコンテナ貨物列車が行き来している。
中国側の主要起点は、浙江省の義烏(ウーイー)。ここには、義烏国際商貿城をはじめとした日用品の卸売市場が数多く集積し、日本の百均ショップの製品もここから運ばれてくる。
この義烏とロンドン、マドリッドが、いまや鉄道路線で結ばれているのだ。
激化する先端半導体をめぐる米中戦争
現在、中国封じ込めの最前線は、「先端半導体」の製造とその技術である。半導体は年々、微細化が進み、今後は3ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下の先端半導体の製造が主戦場になると見られている。
いまのところ、これを製造できるとされているのは台湾TSMCと韓国サムスン電子だけであり、また、半導体製造装置においては日本がリードしている。
アメリカとしては、こうした先端半導体の製造・技術を中国に渡さないことが至上命題でとなっている。そのため、TSMCをアリゾナに誘致し、工場建設を進めてきた。
そんななかバイデン政権が、この10月に打ち出したのが、先端半導体の製造装置や技術を中国に提供することを制限する措置であり、さらにアメリカ人が中国の半導体関連企業で働くことも禁止した。
日本の中国依存度は世界的に極めて高い
このように中国デカップリングは相当難しい。工場の操業はもちろんのこと、出来上がっている鉄道網を含めた輸送ルートを、あるときから止めてしまうなどいうことはできようはずがない。
欧州もそうだが、日本の中国依存度は世界的にみて極めて高い。内閣府の調査によると、日本が海外から輸入している品目のうち、携帯電話やパソコンなど1000を超える品目で輸入額に占める中国の割合は5割を超えている。
内閣府は今年の2月、日本、アメリカ、ドイツの3カ国がそれぞれ輸入している品目について、2019年の時点で特定の国からの輸入額が5割以上を占めた品目を調査した。その結果、日本の場合、このような品目は2627もあり、このうち中国が5割以上占めた品目は1133に上っていた。
輸入額に占める中国の割合が高い品目を見てみると、ノートパソコンやタブレット端末が99%、携帯電話が86%、コンピューター部品が62%などとなっている。
また、財務省の貿易統計を見ると、日本が海外から輸入する商品から、輸入額の大きい上位100品目を抽出して、国・地域別に比較してみると、中国が1位の品目がなんと約4割近くに及んでいる。
日本は、まさに「中国依存症」と言ってよく、ここから脱するのは相当な努力がいる。
(つづく)
この続きは2月9日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。