連載943 世界の街角から消えた日本人
いよいよ日本は本当に没落するのか? (中)
「海外旅行者は前年比7.5倍」のトリック
昨年12月、私がこちらに来る前、メディアはJTB発表のプレスリリースを元に「年末年始の海外旅行者は前年比7.5倍」と伝えていた。
こういう見出しを見ると、海外旅行が一気に回復したかに思えるが、これはトリックだ。
7.5倍といっても、それは完全に鎖国状態だった昨年の年末年始と比べての話。今回の海外旅行者は実数では約15万人というから、コロナ禍前に比べたら比較にならないくらい少ない。コロナ禍前の2019年と比較すると、なんと81.9%減という。
これは、HISの年末年始の海外旅行の予約状況レポートでも同じだ。コロナ禍前の需要は戻ってこず、人気旅先ランキングも近場にシフトするという大変動が起こっている。
ランキング1位は韓国・ソウルで、2位はハワイ・ホノルル。これは11年ぶりの首位と2位の入れ代りというのだ。続いて、タイ・バンコク、韓国・釜山、グアム、シンガポール、台湾・台北、フィリピン・マニラ、フランス・パリ、ベトナム・ホーチミンと続くが、ほとんどが近場だ。
しかも、1位になった韓国・ソウルの客層は7割が女性で、10代後半~20代の若年層が全年齢層の約4割を占めている。これは、BTSなどの韓国ポップカルチャーの爆発的な人気があってのことだが、旅行費用が安くてすむことも大きな要因だ。
なにしろ、欧州、米本土往復では航空券以外の燃料サーチャージが約11万円、ハワイでも約7万5000円もかかる。これでは、一般OLは手を出せない。
「お正月と言えばハワイ」は完全消滅
ハワイ・ホノルルに住む知人によると、この正月、ワイキキで日本人観光客はまばらだったという。とくに、若い女性グループのパッケージツアー客は、ほとんどいなかったという。
ワイキキでは、JTBやHISのトロリーが走っているが、例年なら満員なのに客は半数以下。それもそのはず、これに乗るのはほとんどが日本人で、本土から来ているアメリカ人は勝手にレンタカーで走り回り、トロリーには乗らないからだ。
日本の規制が10月に緩和され、12月にはJALが主催するホノルルマラソンがあったので、日本人観光客が戻ると予想した向きもあった。しかし、ホノルルマラソンの日本からの参加者は5000人ほどで、例年の3分の1以下。テレビ放映もなかった。
「去年は400人だったから、それでも増えたほう」と、JALの関係者は言うが、日本人参加の最大のイベントがこれでは、あとは推して知るべしだろう。
「お正月と言えばハワイ」が、かつては芸能界のトレンドで、芸能人なら猫も杓子もハワイに出かけた。ホノルル空港ではレポーターが待ち構え、ワイドショーはインタビュー映像をひっきりなしに流した。
しかし、もはやこれは完全に過去の話となった。
ハワイはいいほう。グアムは観光産業が壊滅
最盛期は、ハワイの観光客の約4割が日本人だった。それが、コロナ禍が明けても戻らず、結局は本土からの観光客が一気に増えた。
一時期、世界中が入国規制を行っていたので、アメリカ国内での旅行先がハワイに集中したのだ。日本人が来ない分、本土客で儲けを出すしかなくなった観光産業は、日本人向け仕様を次々にアメリカ人向け仕様に変えた。たとえば、クヒオ通りの丸亀製麺では、アメリカ人好みのロール寿司などのメニューを増やしたという。
しかし、そうして迎えた今年の正月は、アメリカ本土からの旅行客も減ったという。これは、世界中で規制が緩和され、アメリカ人が自由に海外旅行先を選べるようになったからだ。
それでも、本土から旅行客が来るハワイはいいほうで、ほぼ日本人だけの海外旅行先だったグアムは惨憺たる状況という。タモンのデューティフリーは売り上げが半減し、街はまるでゴーストタウン。
観光業者は観光を捨て、駐留米軍相手のビジネスに切り替えるしかないという。
(つづく)
この続きは2月14日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。