連載950 金融バブルの崩壊は近いのか? 「リスク資産」を捨て「実物資産」に切り替えるとき (中1)

連載950 金融バブルの崩壊は近いのか?
「リスク資産」を捨て「実物資産」に切り替えるとき (中1)

 

会員数、出稿数の減少でたちまち収益は悪化

 ビッグ・テックが代表するIT関連企業群は、これまでもっとも雇用に貢献してきた。米労働省は、IT関連企業群の雇用は今後10年間で約70万人増えるという推計を公表しているが、はたして現実がそのようになるだろうか?
 AIやIoTの発展は、ますますヒトの労働力を必要としなくなる。しかも、IT産業の収益は、ほとんどがユーザー数の増加に支えられている。ユーザー数が増加すれば、それに伴うサブスク収入も広告収入も上がる。
 しかし、ユーザー数が伸びないか、あるいは減少すれば、業績は逆回転する。とくに、景気後退で企業の広告出稿が減れば、IT産業の収益はたちまち悪化する。
 コロナ禍の巣篭もり需要で、会員数が急増していた動画配信大手のネットフリックスは、2022年春に約10年ぶりに会員が減少に転じた。その結果、6月には、社員の約3%に当たる300人のレイオフに踏み切った。
 これが、ビッグ・テックのリストラの始まりであり、それまで株式市場を牽引してきた「GAFA神話」の崩壊の始まりでもあった。
 メタ、グーグル、アマゾン、アップルという「GAFA」のうち、2022年に増益を確保できたのは、iPhoneの新機種を発売したアップルだけだった。メタのCEOザッカーバーグは、昨年暮れ、「2023年にわれわれはいまと同規模かもう少し小さな組織になる」と宣言している。
 IT関連企業のリストラは、すでに金融業界にも及んでいる。今年になって、ゴールドマン・サックスは3000人超のリストラを発表し、続いてブラックロックも最大500人を削減すると発表した。

NY株も日本株も“適温相場”が続くのか?

 そこで、ここからは最近1年間の株式動向を見てみたい。
 まずNY株価(ダウ平均株価)だが、ほぼ1年前の2021年暮れ、NY株価は市場最高値の3万6331ドルを記録した。以来、ここがピークでだらだらと下げ、昨年9月には2万8725ドルまで下がった。しかし、そこから反転し、じわじわと上がって11月に3万4589ドルに達した。
 現在(1月23日時点)は、そこからやや下がったものの、3万3000ドル台にある。
 アナリストのなかには、「ここからまた上昇に転じる。買いだ」という見方もあるが、リセッションの声が聞こえるだけに取引は軟調だ。
 一方、日本株(日経平均)はどうかというと、NY株とほぼ相似形で値動きを繰り返してきた。
 なんと、日経平均はコロナ禍のなかで上昇を続け、2021年9月に2万9452円に達し、そこをピークにだらだらと下落と上昇を繰り返し、2022年10月に2万7968円を付けて、その後、やや下落して現在にいたっている。
 本原稿を書いている1月23日、週明けの株価は2万6906円である。

大富豪イーロン・マスクは26兆円を失う

 こうやって見ると、景気後退が言われているのに、株価は下落基調にならず、いまのままのラインで“適温相場”が続いていくように見える。
 しかし、個別銘柄で見ると、すでに暴落と言えるほどのものが散見する。たとえばウーバーは昨年7月、最高値かの半値に下落した。その後、盛り返したが、まだ半分ほどしか戻っていない。
 ひどいのはテスラで、昨年4月に381ドルという史上最高値を記録した後、下がり続け、12月27日には108ドルまで下がった。ほぼ4分の1という大暴落だ。
 その結果、イーロン・マスクの純資産は1294億ドルと、ピーク時から2100億ドル(約26兆円)余り減少し、世界一の富豪の座から転落した。
 このような株価の動向からうかがえるのは、このまま本当にリセッションになり、金融引き締めが続けば、これまで続いてきた「金融バブル」が一気に崩壊するのではないかという危惧だ。
 すでに、その兆しはあり、それを警告する声も発せられている。
(つづく)

この続きは3月1日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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