第4回 教えて、榊原先生!日米生活で気になる経済を専門家に質問

「インフレ抑制と人員削減」

Q. 最近、テック企業を中心に人員削減のニュースを聞きますが、今後人員削減はますます広がるのでしょうか?

榊原さん:人員削減のニュースはテック企業に限らず、いろいろな産業に広がっている様子です。ゴールドマン・サックス証券など金融業でも見られましたし、直近ではウォルト・ディズニーのニュースも出ました。こうした動きは、前回の第3回のコラムで「米国連邦準備制度(FRB)は、インフレ率を目標の 2% に収束させるため景気に悪影響が出ても止むを得ないとの考えです」と指摘したように、利上げによる金利費用の上昇および全般的な経済活動の減速という事態に直面している企業がコスト削減に目を向けざるを得なくなっているのだと思われます。

 インフレ率が2%へ落ち着く兆しを見せるまでは、FRBが金利を引き上げたり、少なくとも高い水準で維持したりすると考えられ、その間それなりに人員削減が続く公算でしょう。ただ、景気は意外に底堅く、ものすごい勢いで人員削減の波が押し寄せる事態にはならないと見ています。それでも失業率が53年振りの低水準になるほど企業の積極的な雇用が持続したため、労働市場は平均的な水準よりひっ迫した状態です。従って、企業がコストを意識すれば、その膨れた分のうち多少の調整につながっても驚きではありません。

 テック企業に関しては、バイデン大統領が巨大ハイテク企業とその経営者の権力の乱用に立ち向かう姿勢を明らかにし、「ハイテク企業の分割も排除しない」と語っている点が注目です。2月8日に行われた一般教書演説でも「大手オンラインプラットフォームが自社の製品に不当な優位性を与えることを防ぐための超党派の法律を制定した」と述べ、関連法を可決するよう議会に呼び掛けました。分割という可能性含みでもあり、この問題の展開はテック企業の雇用動向にとって大きな焦点になるでしょう。

Q. 給与も上がりにくくなりますか?

榊原さん:現状6%超となっているインフレ率を、目標の 2% に収束させるために金融政策が運営されるということですから、インフレ率の低下に合わせて恐らく平均的な賃金の名目伸び率も下がることになると考えられます。しかし、インフレ率と名目賃金上層率は必ずしも1対1の関係ではないですから、インフレ率が2%だから賃金も2%の伸び率まで下がることが必定というわけではありません。むしろ53年振りの低失業率が示唆する通り、労働需給が非常にタイトで賃金には上昇圧力が残りやすい状況です。ご存じのように、米国は日本と比べて賃金より雇用者数で調整しがちだという相対的な傾向もあります。

 やはりポイントは、インフレ率が目標の2%へ向かって早めに落ち着いてくるかです。インフレ圧力が強ければ、金融引き締めもさらに厳しくならざるを得ません。そうなると景気後退局面になる可能性も出てきて、雇用削減が広がって労働需給は緩み、給与にも顕著なマイナスの影響が生じるでしょう。今の時点ではその公算が大きいとまで言い切れないと思いますが、果たしてどうなるか、インフレ率の行方が注目されます。

先生/榊原可人(さかきばら・よしと)
Soleil Global Advisors Japan株式会社の取締役。主にファンド商品の投資仲介業務に従事。近畿大学非常勤講師(「国際経済」と「ビジネスモデル」を講義)。以前は、米系大手投資銀行でエコノミストを務めた後、JPモルガン・アセット・マネジメントで日本株やマルチアセット運用業務などに携わる。

 

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