【子どものメンタルヘルス】専門家インタビュー 精神科・心療内科医 松木隆志先生

精神科・心療内科医 松木隆志先生

 

「自分の不満を言葉で表現し、誰かと共有することは心の健康のために大切です」

 

Q. コロナ前の社会生活が戻ってきておよそ1年。コロナの前後を比較して最近の傾向はいかがでしょうか。

 コロナ中は学校に行けない、友達に会えない、好きな習い事やスポーツができないというストレスと、家族同士の摩擦から生じるストレスがありました。最近はコロナが落ち着き、学校も習い事ももとの生活に戻ろうとしている。そういった社会環境の急激な変化にお子さんの気持ちが順応できず、具合が悪くなるパターンが増えています。

Q. 子どものストレスの現れ方として具体的な例をおしえてください。

 「言語化」「身体化」「行動化」という3つにおおむねわけられます。「言語化」はお子さんが自分の気持ちを言葉で表現するため、親御さんも変化に気がつきやすいです。こんなことが嫌だった、辛いことがあってイライラしているなど、言葉の表現は一見かんたんそうに聞こえますが、大人でも苦手な方が多くいらっしゃいます。「身体化」はよく仮病だと誤解されがちですが、頭が痛い、お腹が痛いなど、身体の症状として現れています。最後は「行動化」です。ストレスが普段とは違う行動として現れます。暴れる、かんしゃくを起こす、学校内で問題行動を起こす、ひきこもりなど、行動は多岐にわたります。例えば、ゲームを一日中するなど、過剰にひとつのことを連続して行うことも注意が必要です。

 「言語化」は第三者にも理解を得られやすく、3つの中で一番成熟した表現方法となります。一方で「身体化」と「行動化」は言語表現が未発達である小さなお子さんに多く、未成熟な表現とされています。とはいえ、成熟、未成熟というものは、かんたんに年齢で区切れるものではありません。人間の言語能力は年齢とともに発達し、思考力と表現力も豊かになります。しかし、育った環境で自分の気持ちを表現する機会が少なかった場合、大人であっても自分の気持ちを言葉で表現することは難しいと思います。

Q. 症状が現れたときに、しつけの問題、反抗期とどう分けて考えればよいでしょう。

 「身体化」「行動化」はお子さんの異常に気が付きにくいうえ、反抗期や本人の性格だと誤解され片付けられてしまうことが非常に多いです。しかし、今までとは違う行動、表現パターンが生活に出てきて、それが継続する場合は、見逃さず専門家に相談することをおすすめします。

Q. 日本で子どものメンタルヘルスに関して不安をお持ちの親御さんへアドバイスはありますか。

 多くの方が愚痴、不満は良くないこととして捉えていらっしゃいます。実はネガティブな感情を言葉で表現することは非常に良いことなのです。もちろん、人を誹謗中傷することは良くないことですが、自分の不満を言葉で表現し、誰かと共有することは心の健康のために大切です。日々の暮しのなかで、ストレスを感じることは自然なことです。自分の気持ちや考えを言葉で表現し、他者と共有することでストレスと上手く付き合うことが重要だと考えています。お子さんが不満を口にしたときには、「文句を言わない、不満を言わない」と押さえつけることなく、辛い気持ちに共感して聞いてあげることをおすすめします。

 

松木隆志先生
Takashi Matsuki, MD

精神科・心療内科医。東京医科歯科大学医学部卒業。横須賀米海軍病院、同市立うわまち病院で初期研修修了後、日本最大手の在宅医療機関の湘南なぎさ診療所で在宅医療に従事。同診療所院長を経て来米後、NT市マウントサイナイ医科大学ベスイスラエル病院精神科で精神科専門医研修修了。同病院精神科救急部部長・指導医を経て、現在マウントサイナイ医科大学精神科助教授・同医科大学モーニングサイド病院精神科救急部の指導医。診療と教育に従事する傍ら、ニューヨーク/ニュージャージーの個人オフィスで一般外来診療を行う。

Takashi Matsuki, MD

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