連載952 金融バブルの崩壊は近いのか?
「リスク資産」を捨て「実物資産」に切り替えるとき (下)
FRBも日銀も中央銀行は紙幣を刷り続けた
コロナ禍で世界中がロックダウンされたが、それは3カ月間ほどのこと。その後、ロックダウンが解かれ、ワクチン接種が始まると、世間のムードは一転した。株価も上がりだした。
当時、「3月の底値でロスカットしなくてよかった」「あそこで買いを入れて大成功」などと言う人間のこれ見よがしの声を聞いて、私は嫌な気分になった。
「狼狽売りした奴らはバカだ。FRBも日銀も輪転機をフル稼働してカネを刷って配ると言っているのだから、株があれ以上下がるわけがないだろう」
この見方が当たっているだけに、気分が悪くなったのだ。
コロナ禍で、あらゆる経済指標が悪化していた。しかし、株価だけは上がった。
そしてこの状況、余韻がいまもなお続いている。FRBもECBも、日銀を除く世界中の中央銀行が金融引き締めに入り、金利が上昇しているのにもかかわらず、株価は“適温相場”を続けている。
世界的な金融緩和は、ゼロ金利はもとより、緩和の対象をジャンク債にまで拡大して続けられた。中央銀行がなんでもかんでも買うというのだから、投資家にとってリスクはないも同然だった。
しかし、緩和終了で引き締めに入ったいま、同じ状況が続くだろうか?
「欲望資本主義」は限界に来ているのか?
現代の資本主義を「欲望」に基づく資本主義と見る見方がある。いまから30年も前に、経済学者で思想家の佐伯啓思氏は、『「欲望」と資本主義-終りなき拡張の論理』(講談社現代新書、1993)という本を書いて、このことを指摘している。
現代の資本主義の原動力は、「実需」でなく、人間の「欲望」だというのだ。
そう考えると、たしかに、冷戦終了後、1990年以降、世界経済は常にバブルを繰り返してきた。バブルを起こすのは、人間の欲望である。歴史上のバブルの先駆けとされるオランダの「チューリップ・バブル」は、チューリップが招いた。チューリップは人間が生きるために必要な必需品ではない。
現代社会は実需に基づく必需品だけでは、経済発展しない。経済は回らない。必需品ではない贅沢品で経済が回っている。贅沢品というか、時代の先端をいく商品と言ったほうがいいかもしれない。
だから、その贅沢品、先端品が飽きられると次の贅沢品、先端品が登場し、消費者が次々にそれを消費することで経済が回っていく。
まさに「欲望資本主義」である。
必需品不足が招くバブルの最終局面
本来、人間の暮らしに必要でないものを必要と思わせ、それを消費することで満足感、高揚感を与える。そして、必要でないとわかる間もなく、次の必要と思えるものが登場する。
1990年以降、パソコン、携帯電話、スマートフォン、インターネット、ゲーム、SNSなどが次々に登場して、バブルをつくってきた。
これら実需でないものの消費で経済規模が拡大し、経済は成長し、金融は回ってきたのである。
金融バブルで言うと、IT投資によるドットコムバブルの次は、サブプライムローンによる住宅ローンバブルだった。これがリーマンショックで崩壊すると、政府は中央銀行に命じて、金融資産バブルをつくった。これは国債バブルでもあった。なんと、日銀はその最先端を行き、異次元バズーカ砲による量的緩和バブルをつくった。
この量的緩和バブルがコロナショックで崩壊すると、政府は財政出動を駆使して膨大な借金をつくった。こうして金融バブルは継続し、ついに、その最終局面を迎えたのである。
昨年からFRBをはじめとした世界中の中央銀行は緩和の手仕舞い(テーパリング)から、金融引き締めに転じたのである。
したがって、このままリセッションとなり、経済が低迷した場合、金融バブル崩壊を防ぐ手立てはもう残されていない。基軸通貨国のアメリカ、堅実財政国のドイツ(=EU)は別として、とくに日本は金融緩和を続けるほか手はなく、完全に詰んでいる状態だ。
次のイノベーション、贅沢品、先端品は当分登場しそうもなく、足元では、実需品不足のインフレが止まらない。気候変動による農産物の不作。それが引き起こす食糧不足。そして、ウクライナ戦争が招いたエネルギー不足。
いま私たちは、実需こそ経済の根本であることに気づくべきだ。モノ不足によるインフレは止まらず、金融バブルは最終局面となって崩壊する。株価はふたたび暴落する可能性が高い。
(つづく)
この続きは3月3日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。