連載955 なぜ倒産させないのか?
若者を食い物にして生き残る日本の大学 (中)
18歳人口が減っているのに大学数は増加
大学は学生がいなければ成り立たない。もっと端的にいうと、受験生から徴収する受験料(入学検定料)と入学した学生の授業料、寄付金で成り立っている。これが、少子化でどんどん減っている。
この業界は、受験生の平均年齢である18歳人口を基準にしてものを考えるが、18歳人口はすでに1992年の約205万人から減少を続け、2020年には約116万7000人にまで減った。
これだけでも大変なことだが、2040年には約88万人になると予測されている(というか確実にそうなる)。
こうしたなかで、驚くべきことは、全国の大学の数が増え続けてきたということだ。日本の教育業界はいったいなにを考えているのかと言いたいが、これは事実だ。
財務省の資料によると、1992年と2020年では、18歳人口は43.0%減ったが、大学数は384校から615校へ1.60倍、入学定員は35万6000人から49万1000人へ1.38倍も増えているのだ。
これでは、教育の質は落ちるのはもとより、入学者数が減って定員割れを起こす。実際、すでに約4割の大学(学部)で定員割れが発生していて、そういう大学ではまともな学生生活、授業ができなくなっている。
私立大学の約4割は赤字で破綻確実
日本私立学校振興・共済事業団の調査(2020年度)によると、全国599の大学のうち222校で財務状況(事業活動収支差額比率)がマイナスとなっている。つまり、4割近くの大学は赤字となっている。
とくに地方の中小大学の財務状況はひどく、なんらかの援助・補助がないと経営破綻は確実となっている。しかも、赤字大学のなかで、そのマイナス幅が20%以上の大学がほとんどいうから、状況は深刻だ。
赤字大学が存続できているのは、国や地方自治体からの補助金(特別補助と呼ばれるもの)によるところが大きいという。しかも、定員割れをしているほど、国の補助金の配分が手厚いというから、この国はどうかしている。
私立大学(私企業)に税金をつぎ込んで存続させているのだから、これは資本主義ではないだろう。
財務省の資料によると、赤字大学が2019年度決算の状況のまま今後推移したとすると、その約2割にあたる121の学校法人が将来的に資金ショートを起こすという。
経営破綻を逃れるための生き残り術
経営が逼迫している大学がなにをしているかというと、とにもかくにも学生数の確保と、補助金の獲得である。学校法人経営が多角的経営の一つというところは少ないので、まずは授業料を払ってくれる学生の頭数をそろえることに必死になる。
私が知己にしている大学ジャーナリストは、地方の赤字大学に呼ばれ、「お知恵拝借」を懇願されるというが、もとより、人口減に勝てる知恵などない。いまさら、地方の大学が国際学部、情報学部などつくっても、誰もやってこない。
そのため、わざと定員を水増しして補助金をせしめる。仕方なく、受験料や授業料を値上げする。ともかく、受験してきた者なら誰でも合格させる。推薦選抜、総合選抜の枠を増やして合格を連発するなど、なんでもありだ。
さらに、国や地方自治体から補助金がもらえる外国人留学生を増やすなど、いまや大学はなりふり構わなくなった。
なにしろ、右翼・保守を標榜する国士舘大学ですら、中国人留学生が激増しているのだから、一部をのぞいて大学のブランドも大きく失墜している。
もう一つの奥の手は、私立大学が公立へ鞍替えするという生き残り術だ。たとえば、鳥取環境大学、長岡造形大学、静岡文化芸術大学などはそうした道を選んだ。しかし、これは、自治体や国に財政負担させるということだから、引き受ける自治体もどうかしている。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。