連載957 なぜ倒産させないのか? 若者を食い物にして生き残る日本の大学 (完)

連載957 なぜ倒産させないのか?
若者を食い物にして生き残る日本の大学 (完)

 

滞納するとブラックリストに載ってしまう

 奨学金を出している日本学生支援機構(JASSO)の2015年のデータによると、3カ月未満の遅延が発生している人間は32万7512人、3カ月以上の遅延となっている人間は16万4635人いる。
では、3カ月以上滞納すればどうなるのだろうか?
 当然だが、督促され、それに応じられなければ、ブラックリストに載る。JASSOは全国銀行個人信用情報センターに加盟しているので、個人信用情報に滞納情報が記録されることになる。
 そうなると、クレジットカードが組めず、新たなキャッシングもできず、住宅ローンも組めなくなる。さらに滞納分は年10%の延滞金まで取られる。
 これでは、少子化が進むのは当然だ。子供を持つ以前に、結婚すらできないからだ。
 卒業と同時にのしかかる借金返済。首尾よく一流企業に就職できたとしても、返済はきつい。それ以前に、いまや大卒というだけで正社員として就職できるかどうかもわからない。すでに、名門大学以外の学歴は陳腐化していて、役に立たない。

なぜ少子化なのに大学を減らさないのか?

 つくづく思うが、いまの日本の大学に行く価値があるだろうか? 日本の学歴、肩書き社会が今後も続き、年功序列・終身雇用制度が崩壊しないという前提でしか、日本の大卒の肩書きは意味をなさない。
 THE(タイムズ・ハイヤーエデュケーション)などの世界の大学ランキングでは東大、京大のみがトップ100に入るだけで、早慶ですら200位以下。また、大学を出ても世界共通語の英語が話せないのでは、海外の高額給料企業などに入れる見込みなどゼロだ。
 すでに欧米圏の大学、いやアジアでも大学教育はリベラルアーツを終えると、デジタル社会に適合した実学教育に移行している。それをいまだに、単なる教養を身に付けるだけのアカデミック教育をやっているのだから、進学する若者たちがかわいそうだ。
 それにしても、少子化で子供が減るのに合わせ、なぜ大学を減らさなかったのだろうか? 経営が成り立たないのら、資本主義なのだから自然淘汰に任せるのが当然だ。
 ところが、日本という国はじつは社会主義国家のため、なんでもかんでも救ってしまう。さらに、官僚たちは自分たちの天下り先が確保できるので、新設大学をどんどん認可してきたのである。

小手先の入試改革など意味なし

 1月25日、文科省は中央教育審議会大学分科会で、今後の受験科目の見直しや英語民間試験活用などの改善を求める指針案を示した。
 その内容を見ると、今回の指針の目的は、高校段階から文系理系に偏らず幅広く学び、大学で文理の枠を超えた能力を伸ばせる大学生の拡大を狙うということのようだ。
 たとえば、現在、国立の入試は原則「5教科7科目」だが、私立は受験生を集めやすくするため、科目数を減らしている。たとえば、早稲田の政経などは経済学を教えるというのに、入試科目に数学がない。これを是正する。
 また、高校では2年生から、文系、理系にコース分けてしまって受験教育を行っているが、これでは教育に偏りが出てしまうので、是正すべきというのである。
 さらに、英語では、スピーキング力などを問う英語民間試験を活用する大学が2割程度にとどまって普及していないから、これをもっと活用せよと言うのである。
 ざっと指針案を見たが、まったくの小手先の話だ。そんなことより、日本を実力社会につくり変え、官庁と企業に新卒一括採用、年功序列、終身雇用をやめさせれば、大学教育もその下の小中高教育もガラッと変わるだろう。
 このままでは、日本の若者の将来は限りなく奪われるだけだ。

(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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