連載958 偵察気球で緊張する米中関係!
世界一の「監視国家」になった中国の実態 (上)
中国の偵察気球がアメリカ本土上空を飛行したことで、米中関係が緊張化している。それにしても、なぜ中国は、こんなすぐバレる方法を取ったのだろうか?
いまや世界一の「監視国家」と言える中国は、人類と国家に関するあらゆる情報を集めている。もはや、中国人自身にプライバシーはなくなった。中国の監視社会は、すさまじく進んでいて、やがて世界中に広がってしまうかもしれない。
もちろん、監視社会に関してはアメリカも同じ傾向にある。やがて日本もそうなる可能性がある。今回は「監視国家」中国の実態に迫ってみたい。
世界中に飛来している中国の偵察気球
中国の偵察気球は、今回、たまたま発見されて撃墜されたのか、それともアメリカはこれまで知っていたにもかかわらず、知らないふりをして泳がせてきたのかどうかはわからない。
ただ、中国の偵察気球の飛来は、今回が初めてではない。
2月3日、アメリカ国防総省のライダー報道官は声明を発表し、アメリカ本土の上空を飛行しているものとは別の中国の偵察用の気球が中南米を飛行していることを明らかにした。また、『ワシントン・ポスト』紙は、情報機関の関係者の話として、同じような気球が以前、ハワイとグアムの上空でも目撃されており、気球には誘導装置が搭載されていると報道した。
さらに、日本でも2019年から2020年にかけて鹿児島県や宮城県で白い“謎の気球”が目撃されたが、これも中国の偵察気球と見て間違いない。
つまり、中国は世界中に偵察気球を飛ばして、情報収集、スパイ活動を行なっているのだ。
中国外務省は、気象などの科学研究を目的とした民間のものであり、「誤ってアメリカ領空に入った」と説明したが、それは真っ赤な嘘である。
それにしてもなぜ、中国は、こんなすぐにバレるとわかるような手段で、偵察活動を行なっているのか? 疑問に思わざるをえない。
監視されるのは自然でされるほうが悪い
中国がいまや世界一の「監視国家」であるのは、誰もが知っている。いまの中国はまさに、ジョージ・オーウェルが小説『1984』で描いた社会になっている。中国人にはプライバシーも自由もなく、日常行動のすべてが政府の監視下に置かれている。
ところが、中国人自身は、この状況にたいした不満を抱いていない。むしろ、監視に慣れ、そうされるのが自然と思っている節がある。
先だってのゼロコロナ反対デモも、かつての香港の民主化デモも、簡単に潰され、主導者は一網打尽にされた。こうなると、もう誰も抵抗しない。国民は飼いならされた家畜と同じになるのだが、そのことを問題にする雰囲気はいまの中国にはない。
そんなふうだから、彼らは世界を監視し、情報を集めることに、なにか悪いことをしているという意識はないようだ。スパイ行為が「悪」だなどと考えていない。むしろ、情報を取られるほうが悪いと思っているようだ。
(つづく)
この続きは3月13日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。