連載962 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (1) ディサンティスとはいったい誰か? Who,s Who? (上)
世界の今後を考えるとき、やはり決定的な影響力を持つのはアメリカ大統領だ。長期化、泥沼化するウクライナ戦争を見て、もしアメリカ大統領がトランプだったらどうなっていただろうか?と思う
フロリダ州知事ロン・ディサンティス(44)は、日本のメディアにはあまり取り上げられていない。しかし、アメリカではいま注目の的で、次期大統領の最有力候補と目されている。そのため、中国、ロシアをはじめ、世界各国が彼の調査に乗り出し、アプローチを試みている。
そこで、彼の人物像と動向を軸に、すでに始まっている次期大統領選挙について、今後、数回に分けて配信する。
中間選挙後、あっという間に有力候補に!
前回の2018年の知事選は0.4ポイントいう辛勝だったが、昨年11月の中間選挙知事選では、なんと18ポイントという大差をつけて圧勝。これで、一気にスターダムに駆け上ったのが、フロリダ州知事のロン・ディサンティス(Ronald Dion DeSantis)だ。
44歳とまだ若く、2年後にもし大統領になっても46歳。オバマ元大統領(就任時47歳)以来のアメリカにふさわしい、若い大統領の誕生となる。
前回の知事選の前から、「ミニ・トランプ」と呼ばれ、トランプ前大統領と同じ保守強行路線で名を売ったが、トランプとは決定的に違うことがある。
それは、一般家庭に育ち、イエール、ハーバードで学んだ秀才であること。金持ちのボンボンで、カネとコネで高学歴を手にしたトランプとは、頭のできが違う。
ただ、難点はトランプよりはるかに、演説が下手なことだ。しかし、いまやアメリカのメディアは、彼が間違いなく共和党の予備選を勝ち抜いて、大統領候補になるだろうと予測している。
私がびっくりして本気で彼に注目するようになったのは、なんと「クリプト」(crypto asset:暗号資産=仮想通貨)に理解があるとわかったからだ。ロン・ディサンティスは2022年度の州予算案のなかで、「暗号資産に優しいフロリダを実現する」という項目を掲げ、暗号資産やブロックチェーン推進に、70万ドルの予算を割り当てた。
暗号資産で給料を受け取るという先進性
すでに、フロリダ州マイアミ市は、「シティコインプロジェクト」(CityCoins Project)に参画し、「マイアミコイン」と呼ばれるクリプト(ビットコイン)を流通させ、それによって得られるマイニング収益の30%を配当として受け取っている。これにより、マイアミは3カ月間で20万ドルの収益を得たという。この収益は、市民に配分される。
マイアミ市長のフランシス・スアレスは、クリプト導入に積極的で、「クリプトはポンズスキーム(ねずみ講)ではないか」という批判をものともせず、2022年8月から導入し、自らの給料をビットコインで受け取っている。
ディサンティスは、これを州全体にも拡大し、フロリダ州の企業が州政府に直接、クリプトで州税などを支払うことができるようにするために、州の金融サービス局に20万ドルを、高速道路安全・自動車局内のブロックチェーン試験プログラムに25万ドルの予算を付けた。
いずれ、マイアミと同じように、州民が各種手数料や税金をクリプトで州に支払うことができるようにするとも宣言した。
アメリカでこんな先進的なことを行なっているのは、ニューヨークとテキサス州オースティンだけである。ニューヨークは、2022年11月10日から、クリプトの「ニューヨークシティコイン」(NYC Coin)を導入した。エリック・アダムス新市長が先進的だからである。
すでに、時代は「Web3.0」に突入し、資本主義は「デジタル資本主義」あるいは「情報資本主義」に変質している。
トランプは、ツイッターは大好きだが、時間は「Web2.0」で止まっている。
なぜ「ミニ・トランプ」と呼ばれたのか?
ディサンティスは、これまで、トランプと同じような政策を実行してきた。たとえば、移民には不寛容で、2022年9月に、移民50人ほどを乗せたバスを、富裕層のリゾート地として有名なマサチューセッツ州マーサズ・ヴィンヤードに送り込んだ。これは、テキサス州のグレッグ・アボット知事が、やはり移民を乗せたバスをワシントンDCのカマラ・ハリス副大統領公邸に送り込んだのと同じである。
共和党はコロナ禍に対しても不寛容で、ディサンティスは、「マスク・マンデート」(マスク着用義務)をいち早く解除した。そのせいか、フロリダでは一時的に感染者が爆発的に増えたが、保守層の有権者にはこの政策が大歓迎された。
さらに、彼はLGBTQなど、性的マイノリティに対しても不寛容で、フロリダ州の小学校や幼稚園などの教育機関で性的指向や性自認について議論することを禁じた、通称「ドント・セイ・ゲ・アクト」(ゲイと言ってはいけない法)を制定した。
これを、オーランドにあるディズニーワールドが批判すると、ディズニーワールドに対する優遇税制と特別自治権を一方的打ち切った。
こうしたことを見れば、誰もが「なんだトランプと同じではないか」と思うわけで、それで、「ミニ・トランプ」と呼ばれたのである。
(つづく)
この続きは3月17日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。