津山恵子のニューヨーク・リポート Vol.4

津山恵子のニューヨーク・リポート
Vol.4 世界で4番目にクールな街に住む!? リッジウッド「愛」、いつまで

PDF版はこちらをクリック

 「世界で4番目にクールな街に住んでいるの?」 と最近、よく友人に聞かれる。私が住むクィーンズ区リッジウッド(Ridgewood)が2022年末、Time Outに「ニューヨーク市で最もクール」かつ、「世界で4番目にクール」な街に選ばれたためだ。

 Time Outは、世界59カ国で発行される雑誌。毎年2万都市の住民が、市内で最もクールな街を選ぶのをもとに指数を出し、ランキングを発表する。

 リッジウッドは、クィーンズ区の最南端にあり、ブルックリン区に少し突き出している。このためブルックリンと勘違いされることが多い。今のアパートの下見に行き、美しいレンガの建物が延々と並ぶ通りを見て、「ブルックリンに住みたかったの!」と言ってしまったのは私だ。「テクニカルにはクィーンズだけどね」と、家主の訂正が入った。

 しかもTime Outによると、私のアパートは、最もおしゃれな地区のど真ん中にある。記事中で紹介されたバー、レストラン、古本屋、古着屋、画材屋が全て私のアパートから数ブロックに位置する。テイストはモダンだが、全て個人営業で、伝統とローカル色がクロスする場所ばかりだ。

 ニューヨーク市の他の地区に比べて、際立つのは「リッジウッド愛」と、コミュニティの絆だ。「ガーディアン」と呼ばれるリーダーが区画ごとにいて、夏祭りを仕切り、住民の相談にものる。病気になるとご近所が食べ物を戸口に置いていってくれる。夏になると、高齢者が建物前でコーヒーを飲み、ラジオを聴きながら、歩道で遊ぶ子供たちを見守る。

 1910〜20年代に建てられたレンガ建のビルが連なるため、どこを歩いていても広い空が見える。これもマンハッタンでは味わえない贅沢だ。

レンガ建てアパートの手前がリッジウッド。大型ビルはブルックリン側に建設中だ。

 話題の街に住むのは、ウキウキする。一方で、かすかな不安がある。人気が出て家賃が上がり、ビッグビジネスが進出してくる可能性は大きい。近所でエレベーター付きのビルは、今のところアパート一軒と病院しかない。チェーンビジネスは、タコベルとウェンディーズだけ。

 実は、私のアパートから2ブロック先はブルックリン区となる。その境界線すれすれに大型な商業ビルが建設中だ(写真)。テナント候補は、ターゲットとバーリントン・コート・カンパニーという噂が飛んでいる。求人広告が出ているためだ。

 この大型ビルが引き金となり、再開発の波がリッジウッドに押し寄せてくるのではないか。住民は、震え上がっている。しかし、時間をかけて確実にそれは起きるだろう。

 黄色とブラウンのレンガ建てビルが一つ、二つと消えていくのを見るのは、何年後だろうか。それまで、私たちは、「リッジウッド愛」を通し、少しでも再開発に対抗していきたい。

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

タグ :