連載966 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (2) ミニ・トランプか? それともリアリストか?(上)

連載966 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (2) ミニ・トランプか? それともリアリストか?(上)

先週に続いて、次期アメリカ大統領選の最有力候補と目されているロン・ディサンティス(Ronald Dion DeSantis、44歳)の素顔と動向に迫ってみる。
 現在、彼はトランプ前大統領とは完全に仲違いしているが、かつては忠実な支持者、政策フォロワーだった。そのため、「ミニ・トランプ」と呼ばれもした。しかし、それは選挙に勝つための方策であり、本来は現実重視のリアリスト(現実主義者)という見方もある。
 ただ、これまで彼が行ってきたことは、アメリカが抱える問題点を浮き彫りにしているので、今回は、そこを深掘りしてみたい。

 

“言いたい放題”、“やりたい放題”の破壊者

 仮に世界が新型コロナウイルスのパンデミックに襲われなかったら、トランプはバイデンに勝って再選を果たしていたに違いない。なぜなら、コロナ禍が顕在化する直前の2020年1月時点で、アメリカの経済は、就業者数がトランプ政権発足以来約700万人増加し、失業率は3.5%まで下がるという、空前の好景気となっていたからだ。
 とはいえ、トランプは、暴言、失言、トンデモ発言を連発する“言いたい放題”、“やりたい放題”の大統領だった。そうして、民主党のリベラルから共和党の穏健派まで怒らすことばかりやり、最後は議会襲撃事件まで起こして、民主主義を破壊してしまった。
 トランプはともかく、“破壊者”だった。
 外交では、TPPを離脱し、中国との貿易戦争を激化させ、パリ協定から離脱して温暖化を放置、国連を無視して大使を引き上げた。さらに、NAFTAの協定内容の見直しを行い、NATOや日本には軍事費の増額を要求し、北朝鮮の“ロケットマン”とは実りなきパフォーマンス首脳会談までやってのけた。このどれもが、世界を混乱させた。
 内政では、オバマケアを無効化し、中絶による女性の権利、LGBTの人権を無視し、そのうえで移民に対して不寛容政策を取った。メキシコ国境に壁を築き、不法移民は容赦なく送り返した。さらに、ツイッターや演説で人種差別発言を繰り返し、アメリカの分断・分極化を加速させた。
 そして、自分のことを批判するCNNのようなメインストリームメディアを名指しで「フェイクニュースだ」として、記者に質問する機会すら与えなかった。

ポピュリズムでアメリカ、共和党を乗っ取る

 そんななか、アメリカ国民が大統領選に対して、いまひとつ盛り上がらない、冷めていることがある。それは言うまでもなく、もし、「バイデンvs.トランプ」という前回と同じ構図になるなら、歴史上ありえない「高齢者対決」になることだ。
 現在80歳と高齢のバイデンは、大統領選が行なわれる年には82歳。現在、76歳のトランプは78歳になる。まさに“ジイサマ対決”で、「それだけは止めてほしい」という声が根強い。
 実際、1月に公表された「インベスターズ・ビジネス・デイリー世論調査」(I&IーTIPP Poll)では、バイデンの2期目を支持する人間は22%しかおらず、民主党支持者に限ってでも36%に過ぎなかった。
 いくら熱狂的なファンがいると言っても、トランプもまた同じで、共和党支持者の半分以下しか2期目を望んでいない。
 簡単な話、身内の党から引退を望まれている現職大統領と、民主主義を破壊しアメリカの分断を加速させた前大統領が再び対決することのどこに、アメリカの未来があるのだろうか。

(つづく)

この続きは3月23日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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