連載967 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (2) ミニ・トランプか? それともリアリストか?(中1)

連載967 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (2) ミニ・トランプか? それともリアリストか?(中1)

 

「ミニ・トランプ」「頭の切れるトランプ」

 2018年のフロリダ州の知事選で、下院議員から転じて出馬したロス・ディサンティスは、強力な支援者を求めていた。フロリダは、大統領選挙では民主・共和が僅差で激戦を繰り広げる「スイングステート」である。たとえば、2000年の大統領選では、共和党のブッシュ候補と民主党のゴア候補の票が僅差となり、再集計を巡って法廷闘争を繰り広げた。
 だから、少しでも票になれば候補者はなんでもする。
 そこで、ディサンティスがすがったのがトランプだった。共和党内では反トランプ色の強い議員連盟「フリーダム・コーカス」(Freedom Caucus)のメンバーとして活動してきたが、選挙戦においてはトランプの忠実な僕(しもべ)となり、トランプに応援演説を頼み、有権者にトランプと一緒に写っている写真をバラまいた。
 さらに、前回の記事でも述べたが、選挙広告にまだ幼い娘を登場させ、おもオモチャのブロックで“国境の壁”を築かせた。
 こうして、僅差でも民主党候補を敗って当選すると、トランプの政策と同じような政策を推し進めたので、「ミニ・トランプ」と呼ばれるようになったのである。
 ただ、トランプと比べると、イエールを経てハーバード・ロースクールでJD(法務博士)を取ってロイヤーになったというスーパーエリートの経歴を持っていたので、「頭の切れるトランプ」とも言われた。
 では、彼はフロリダでいったなにをやってきたのか?これまでの「ミニ・トランプ」ぶりを振り返ってみたい。

とうとうコロナ規制を永久に停止

 ディサンティスが「ミニ・トランプ」としてやった政策のなかで、大きな波紋を呼んだのは次の4つだ。
1、コロナ規制緩和政策(反マスク、反ワクチン)
2、移民不寛容、排除政策
3、LGBTQと人権に対する差別政策
4、中絶禁止政策
 このどれも、リベラル派から激しく批判された。共和党内の穏健派、伝統派も顔をしかめた。
とくに4番目のLGBTQ問題をめぐっては、ディズニーワールドとの争いとなり、いまもその対立は尾を引いている。では、以下、この4つを順に見ていきたい。
 2023年1月17日、ディサンティスは、「新型コロナウイルス対策の規制を永久に禁止する」という声明を出した。州内の企業や学校がマスクの着用を義務化したり、ワクチン接種を強制化したりしてはいけないというのだ。
 フロリダ州はテキサス州とともに、コロナ対策としてのマスク着用やワクチン接種の義務化を、いち早く撤廃した過去がある。しかし、それを完全に禁止してしまうというのは行き過ぎと言えるだろう。
 トランプは大統領だった2020年、コロナ禍が始まってからなんと3カ月間もマスクを着けなかった。その影響で、共和党内では着用派と不着用派が対立した。
 ディサンティスは不着用派だったと思えるが、当初は「マスク着用義務」(マスクマンデート)を推進し、ロックダウンも行った。しかし、1年後、大統領がバイデンに代わってから方針を変更した。

「マスクの着用は児童虐待だ」

 2021年夏、フロリダ州ではデルタ株の感染が拡大し、全米でも感染者数がもっとも多い州の一つになっていた。にもかかわらず、ディサンティスは、ワクチン接種とマスク着用の義務を撤廃する方向に大きく舵を切ったのだ。
「ワクチンを接種してそれを証明することができる人だけが通常の生活を取り戻せる。それは不公平だ」として、州内の企業がワクチンパスポートや証明書を要求することを禁止した。
 さらに、「マスクの着用は児童虐待だ」と言い、「子どもの健康について決める権利は学校ではなく親にある」として、義務化をやめない学校には財政支援を停止できるという行政命令を出した。これにより、秋になって感染者数はさらに増えたが、ディサンティスは聞く耳を持たなかった。
 このとき、バイデン政権はなにをしていたかと言うと、ワクチン接種を大企業の従業員に義務付ける方針を打ち出し、ブースター摂取を強力に推進していた。これに共和党は猛反発して、議会での対立は深まった。この対立はその後もずっと続き、2022年11月の中間選挙の争点にもなり、いまも収まってはいない。
 そんななか、ディサンティスは全米で初めて職場で新型コロナウイルスワクチン接種を義務づけることを禁じる法律を成立させたのである。

(つづく)

この続きは3月24日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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