連載969 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (2) ミニ・トランプか? それともリアリストか?(下)

連載969 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (2) ミニ・トランプか? それともリアリストか?(下)

 

「ゲイと言ってはいけない法案」を制定

 LGBTQと人種に対する差別問題は、日本人には理解しづらいかもしれない。なぜなら、それは小学校低学年までの子どもに対しての法案だからだ。
 2022年3月、ディサンティスは、小学校低学年までの子どもに対して“性的指向”や“性自認”についての議論を学校の授業で行わないよう規定する法律(the Parental Rights in Education law:教育における親の権利法)を制定した。親が望んだら、教師はそんな話をしてはいけないというのだ。
 ディサンティスは「学校は子どもたちに読み書きを教えなくてはならない。教師は科学や歴史を教えなくてはならない。公民の授業も増やして、合衆国憲法についての理解を深める必要がある」として、LGBTQのことなど子どもが知る必要はないとしたのだ。
 この法案には、「それこそ差別だ」として激しい批判が巻き起こった。反対派はこの法案を「ゲイと言ってはいけない法案」(Don’t Say Gay Bill)と呼んだ。
 こうした反対派の批判をもともせず、次にディサンティスは、小学校の算数の教科書54冊を不採択にした。
 なぜ、算数の教科書なのか? それは、教科書に「批判的人種理論」(Critical Race Theory:CRT)への言及や、「コモンコア」(Common Core State Standard :共通学力基準)による「社会感情学習」(Social Emotional Learning:SEL)の不要な追加があるからだという。

LGBTQ、人種差別を子供に教える必要はない

 ここでは、このCRTとコモンコアおよびSELを詳しく説明しない。というか、まずもって、私自身がよく理解できていないので、説明できない。
 ただ、これらの基準を、保守派は「リベラル教育をするための洗脳道具」と批判していることを述べておきたい。
 ディサンティスはすでに、2021年6月の時点で、学校でCRTを教えることを禁じた。彼は、学校でCRTを認めてしまえば、「子どもたちにアメリカが腐っていて、国の制度は正統性を欠いている」と教えることになると主張した。
 そもそもアメリカでは、ダーウインの「進化論」(Theory of Evolution)を信じている人間は6割しかいない。残りの4割の人々は、神が人間をつくったという「創造論」(Creationism)を信じており、学校現場で進化論だけを教えることに反対している。共和党、とくに「宗教右派」(リリジャスライト)は、創造論の擁護者であり、
こうした考え方がLGBTQと人種差別に結びついていると言える。
 共和党大統領候補の1人テッド・クル―ズ(テキサス州選出上院議員)は「進化論は共産主義者がつくったウソだ」と言ったことがある。

ディズニーとの戦争状態に突入

 「ゲイと言ってはいけない法案」が引き金になって、ディサンティスは、ウォルト・ディズニー社と戦争状態に入った。この戦争はまだ決着していない。
「ゲイと言ってはいけない法案」が成立すると、ディズニーは批判の声明を発表した。ディズニーはLGBTQを含めたあらゆる差別に対してもっとも積極的に取り組んできた企業である。
 たとえば、ディズニーランドを訪れたゲストに対しての呼びかけを、これまで当たり前に使われてきた「Ladies and Gentlemen」(紳士淑女のみなさん)をやめ、最近では 「Dreamers of all ages」(世代を超えて夢見るみなさん)という言い方に変更している。
 こういうことに、保守派は苛立ってきた。ディサンティスもまたしかりで、ディズニーに批判されると“反撃”に出た。ディサンティスは、オーランドにあるディズニーワールドに対しての優遇措置を停止する法案を州議会に提出して可決させたのである。
 1960年代からディズニーとフロリダ州政府は蜜月関係を築いていた。ディズニーワールドの敷地は税制特区とされ、ディズニーは敷地内の電力や水などのインフラ整備を行う代わりに、州税の優遇措置を受けてきた。ディサンティスはそこに目をつけて、それを撤廃することにしたのである。
 ただし、この法案は2023年6月から施行されることになっているので、まだ猶予はある。しかし、どう見ても、この戦争は収束しそうもない。

(つづく)

この続きは3月28日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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