連載970 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (2) ミニ・トランプか? それともリアリストか?(完)

連載970 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (2) ミニ・トランプか? それともリアリストか?(完)

 

妊娠中絶の権利を女性から剥奪

 中絶に賛成か反対かは、アメリカ政治にとって、以前からの大きなテーマである。賛成するか反対するかによって、政治家のスタンスが決定的に決まると言っても過言ではない。
 中絶権利を擁護する人々(賛成派)は「pro-choice」(プロチョイス)と呼ばれ、人工妊娠中絶を殺人とみなし、あくまで胎児の生命を擁護する人々を「pro-life」(プロライフ)と呼ぶ。民主党はプロチョイスであり、共和党はプロライフだ。
 連邦最高裁は2022年6月24日(米国時間)、人工妊娠中絶を認めた1973年の「ロー対ウェイド事件」の判決を覆し、中絶の権利は憲法上のものではないとする判断を下した。
 いわゆる「ドゥブス判決」(ドゥブス対ジャクソン女性健康機構訴訟)である。これは、トランプが保守派の判事を増やした結果だった。
 この結果を見越してディサンティスは、2022年4月14日に、フロリダ州の中絶禁止を妊娠22週間から15週間へと短縮する法案を成立させた。妊娠15週を超えた場合は強姦や近親相姦による妊娠も例外とせず、中絶を禁止してしまった。
 フロリダでは40年以上にわたり、州憲法のプライバシーに関する修正条項に基づいて中絶の権利が保護されてきた。フロリダは、州憲法で中絶の権利を保障している全米11州の1つで、中絶率はイリノイ州、ニューヨーク州に次いで高かった。この点を、ディサンティスとプロライフ派は気に入らなかったのである。
 ここにおいても、ディズニーは、「ドゥブス判決」を批判する声明を出した。そして、中絶を禁止する州に居住する自社の労働者が他州での中絶手術を希望する場合には支援をすると表明した。このことも、ディサンティスがディズニーに戦争を仕掛けた原因の一つになった。

大企業を叩くのは単なる人気取りか?

 ディズニーとの戦争が示すのは、ディサンティスがトランプと同じように、大企業、エスタブリッシュメントを敵に回し、それを叩くことで人気を得ていることだ。反ワクチンの見地から、ファイザーやモデルナを叩こうとしているのも、同じと言える。
 ただ、彼がこれを本気でやっているのか、それとも単なる人気取りの手法としてやっているのかはわからない。
 言えることは、共和党が大企業寄りだった時代ははるか昔に過ぎ、トランプによって黒人やヒスパニック、下層白人、そして強硬右派、反リベラル派の票に頼る政党になってしまったことだ。そうすることで、草の根から選挙活動の資金を集めている。
 つまり、「ミニ・トランプ」はディサンティスの“スタンス”“主義”ではなく“手法”であって、本当の彼は「現実主義者」(リアリスト)の可能性がある。

現実主義者としてアメリカを運営する

 2022年9月28日にフロリダに上陸した大型ハリケーンの被害からの復興では、ディサンティスはバイデン大統領と連邦緊急事態管理庁(FEMA)による支援に謝意を表明して、協力体制を築いている。
 じつは、ディサンティスは高齢者や障害者への社会保障のための税金を減らし、その代わりに給付額も減らす法案を成立させた。このほか、さまざまな減税法案を成立させている。こうした法案の効果は大きく、退職後にフロリダ
に移住する富裕層や、他州から移転してくる企業が増えた。たとえば、ケン・グリフィン氏率いるヘッジファンド大手シタデルは本社をマイアミに移転させた。
 また、スタートアップも積極的に招聘、援助している。前回も述べたが、この知事はクリプト(暗号資産)にフレンドリーで、デジタル資本主義を推進していく意欲がある。
 こうした面から考えると、彼は今後、トランプから離れ、共和党穏健派となる可能性がある。そうして予備選挙を勝ち抜き、もし次期大

統領になるとしたら、そのときは現実主義者としてアメリカを運営していくかもしれない。
(了)

*今回はここで終了です。この続きは、今後の大統領選がどう展開していくのか。誰が勝ち残るかを展望し、次期アメリカ大統領がなにをすべきかを考察します。

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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