連載972 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (3) もう始まっている選挙レース、勝ち抜くのは誰か? (中)

連載972 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (3) もう始まっている選挙レース、勝ち抜くのは誰か? (中)

 

黒人、ヒスパニックの支持が反映されない

 かねてから民主党は、大統領候補者の指名争いの初戦をアイオワ州から南部のサウスカロライナ州に代えると言ってきた。これは、バイデンの強い意向だった。
 それを受けて、民主党全国委員会は、2月4日、正式に変更を承認した。これにより、民主党の指名争いのスケジュールは、初戦のサウスカロライナが2024年2月3日、同6日にニューハンプシャーとネバダ、同13日にジョージア、同27日にミシガンの順に行われることになった。
 なぜ、バイデンは初戦をアイオワからサウスカロライナに変更したのだろうか?
 それは、2020年の指名争いレースで、初戦のアイオアで惨敗を喫し、さらに2戦目のニューハンプシャーも落とし、4戦目のサウスカロライナでやっと初勝利を挙げたからだ。
 民主党は昔と違い、いまは白人より黒人やヒスパニックの支持者のほうが圧倒的に多い。ところが、アイオワは人口の約9割を白人が占めるため、民主党にとっての本来の支持層が結果に反映されない。
 逆に、サウスカロライナは、黒人人口は約3割だが、民主党支持層に限ると6割を超えている。なにごとも初戦は大事。ならば、勝てるところで行おうというのだ。

全人口の0.016%が大統領を決めていいのか

 これまでの大統領選挙を振り返ると、アイオワの初戦はその後の大統領選挙の帰趨を大きく左右することがたびたびあった。それは、知名度が低いマイナー候補でも、アイオワで勝つか健闘すれば、一気に全国の注目を浴びて有力候補になるからだ。そうなれば、献金も集まる。
 ジミー・カーターやバラク・オバマは、当初は3番手、4番手のダークホースだった。それが、アイオワで注目され、一気に大統領まで駆け上ったのである。
 このような例があるから、民主党の候補者たちは、アイオワの選挙運動に半端ではない時間を費やす。前回のアイオワの指名争いでは、選挙運動にバイデンは58日間、バーニー・サンダースは57日間、エイミー・クロブシャーはなんと69日間もの時間をつぎ込んだ。
 しかし、例年のアイオワの民主党の党員集会に集まるのは、州内の党員の約3分の1、トータルで20万人ほどに過ぎない。それに、党員集会といっても、候補者を1回の投票で決めるのではなく、地区のコミュニティハウスとか小学校の体育館とかに集まって、朝から晩まで討論しながら、何度も投票して決めていく。
 なぜこんなことをやっているのだろうか?
 日本人にとっては本当に不思議だが、これがアメリカのタウンミーティングの伝統なのだろう。開拓時代から、人々はこうしてリーダーを選んできたのだ。
 しかし、平日の昼間に仕事を休んで来られる人がどれほどいるだろうか。
 アイオワ州の人口は約320万人で、アメリカ全体の約1%である。そして、党員集会に参加するのは約20万人だから、アイオワ州の全人口の約16%に過ぎない。となれば、これを計算してみると、アメリカの全人口の0.16%に過ぎない人々が、アメリカの大統領選挙に大きな影響力を持つことになる。これは、どう考えても行き過ぎである。
 とはいえ、共和党のほうはなにも変更せず、例年通り初戦はアイオワで行うことになっている。

民主党、バイデン以外の候補者たち

 初戦をアイオワからサウスカロライナに変更したことで、民主党の候補者たちに変化はあるのだろうか? 
 いまのところバイデン 1人しか出馬宣言していないが、バイデンがあまりに高齢なことから「世代交代」の声も根強くあるので、今後、何人かが出馬宣言すると思われる。
 そこで、以下、出馬の可能性が取り沙汰されている候補者を列記してみたい。
○グレッチェン・ウィットマーGretchen Esther Whitmer(ミシガン州知事、51歳)
 民主党の女性政治家のなかでは、エリザベス・ウォーレン(マサチューセッツ州選出上院議員、73歳)に次いで知名度が高い。2020年2月のトランプ大統領の一般教書演説への反論演説に民主党代表として指名された。また、コロナパンデミックの初期に強力なロックダウンをしたことで注目を浴びた。
○ギャビン・ニューサムGavin Newsom(カリフォルニア州知事、55歳)
 サンフランシスコ市長をへてカリフォルニア州知事となり、同性愛のカップルにも結婚証明書を出すなど急進的な政策で知られている。同じ知事で共和党のディサンティスをライバル視し、フロリダ州民に対し「みなさんの州では自由が攻撃されている。カリフォルニア州に移住しましょう」と呼び掛けるテレビCMを打って話題に。「バイデン氏が出るなら私は出ない」と、これまでのインタビューでは答えているが、意欲は十分だと伝えられている。
 以上の2人が今回の最注目だが、前回の予備選挙に出馬して奮闘した、次の4人も出馬の可能性も報じられている。
○エイミー・クロブシャーAmy Jean Klobucha(ミネソタ州上院議員、62歳)
○ピート・ブティジェッジPeter Paul Buttigieg(運輸長官、41歳)
○カマラ・ハリスKamala Devi Harris(副大統領、58歳)
○バーニー・サンダースBernie Sanders(バーモント州上院議員、81歳)
 さらにもう1人、メディアが注目する人物がいる。ケネディ家の若きプリンスで、“出馬すべし”というムードがつくられている。
○ジョセフ・パトリック・ケネディ三世Joseph Patrick Kennedy III(マサチューセッツ州元下院議員、42歳)
 父はケネディ大統領の弟ロバート。ハーバードロースクールでJD(法務博士)を得て地方検事となり、2012年マサチューセッツ州第4区で連邦下院議員に初当選した。その後2回当選し、2018年、トランプが就任後初の一般教書演説を行ったときは、民主党を代表して地元で演説し、「(トランプ大統領は)われわれが守るべき価値と理想を破壊している」と述べて喝采を浴びた。
 ただし、2020年のマサチューセッツ州の民主党上院予備選に出たが、現職上院議員に敗れている。ケネディ家の再興を一身に背負っているので、常にメディアの注目の的である。
 なお、ロイターと調査会社イプソスが、2月14日に公表した民主党の大統領選挙に関する世論調査によると、バイデンが首位で35%、次いでバーニー・サンダースが13%、カマラ・ハリスが12%、ピート・ブティジェッジが10%という順になっている。

(つづく)

この続きは3月31日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

タグ :