連載980 なぜ日本経済は復活できないのか? 最近のニュースが表だって指摘しない真実 (下)

連載980 なぜ日本経済は復活できないのか? 最近のニュースが表だって指摘しない真実 (下)

(この記事の初出は2023年2月28日)

 

ため息しか出ない「H3」ロケットの失敗

 2月17日の国産ロケット「H3」ロケット1号機の打ち上げ失敗も、本当に情けないニュースだった。予想されていたことととはいえ、実際に飛び立てない実況中継を見ると、ため息しか出ない。
 しかし、会見でJAXAの担当者は、エンジニアとしての当然の見地から「中止」と述べた。これを追及し、「それを失敗と言うんです」と捨て台詞を吐いた共同通信の記者は、SNSで炎上した。「中止」か「失敗」かの言語解釈論争はどうでもいい。
 事実は、予定日に飛ばせなかったのだから、三菱ジェットと同じく、やはり「失敗」だろう。
 これもまた三菱重工である。日本のロケット開発は、これまでほぼ三菱重工が担ってきた。飛行機がつくれない会社に、最新のロケットがつくれるわけがない。
 「H3」の開発は、「H2A」のの後継機として総開発費2000億円余りが投じられた国家プロジェクトである。世界のロケットが使い回し型に替わるなか、使い捨ての大型ロケットをつくったのである。
 三菱重工がJAXAから丸投げされて「H3」の開発を始めたとき、イーロン・マスクの「スペースX」(SpaceX)は、3Dプリンターなどの最新IT技術を駆使してつくった再利用可能ロケット「ファルコン」の打ち上げに着手していた。しかも、H3は2020年に1号機を発射する計画だったから、計画より2年も遅れている。
 いかに、日本の技術とものづくりが劣化しているかを、この件は見事に証明してしまった。本当に情けない話だ。

いまだに全方位、トヨタはこの先危ない

 三菱重工もそうだが、トヨタの迷走も止まらない。まだ、迷走は表面化していないが、このままでは、表面化するのは時間の問題だ。
 トヨタは、2月13日に会見を開き、4月からの新たな経営体制を発表した。その席で、佐藤恒治次期社長は、EVへの取り組みを加速させると表明したものの、ガソリン車やハイブリッド車にも注力する「全方位戦略」は変更しないとした。これを聞いて、これは本当にマズいと思ったのは、私だけではないだろう。
 なぜなら、「全方位戦略」とは、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、燃料電池自動車(FCV)など、すべてのラインアップを維持していくということだからだ。すでに、世界はEV1本化に向かって突き進んでいる。
 それなのになぜ、こんなバカなことを続けるのだろうか?
 トヨタはEV化の流れに完全に乗り遅れている。そのことを自覚しているからこそ、今回、社長を交代してまで、EV加速化に舵を切ったと思っていた。
 しかし、この見方は希望的観測で、いまだに「全方位」を捨てないというのである。こんなことでは、数年で大敗戦をくらうのは目に見えている。
 トヨタがコケたら、日本経済は本当に大きく傾く。それを思うとやりきれなくなる。

もはやテスラ、中国BYDにかなわない

 トヨタは、元々はEVに力を入れていた。2010年にテスラと資本・業務提携を行い、2012年には共同開発による「RAV4 EV」を発売した。ところが、2014年にテスラとの業務提携を解消し、保有していたテスラ株も2016年までにすべて売却した。
 この間、トヨタはEV車「MIRAI」を発売したが、まったく売れなかった。この初代モデルは2020年11月に販売を終了したが、全世界での累計販売台数は1万1000台にすぎない。
 このことが、トラウマになっているのだろうか?
 しかし、テスラの販売台数は年を追うごとに伸び続け、2022年には131万台に達した。これは前年比40%増で、今年は50%増で200万台になると予想されている。もし、このままテスラが毎年50%増を続ければ、2025年には350万台に達することになる。
 この350万台という数字は、トヨタがEV戦略で掲げる2030年の目標販売台数である。テスラのやることを2030年でやるのでは、どうしようもないだろう。
 中国のBYDの躍進もすごい。
 BYDが1月2日に公表した2022年の販売実績によると、「新エネルギー乗用車」の販売台数は前年(59万4000台)の3倍を超える185万7000台に急拡大。そのうちEVは同2.84倍の91万1000台、PHV(プラグインハイブリッド車)は同3.47倍の94万6000台に上った。
 EVの91万台はテスラに次ぐもので、このまま成長すると、巨大な中国市場があるだけに、テスラを抜く可能性が高い。

(つづく)

 

この続きは4月12日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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