連載982 いまさらなにが経済安全保障か。 中国が先端技術で世界を断然リードの衝撃! (上)

連載982 いまさらなにが経済安全保障か。 中国が先端技術で世界を断然リードの衝撃! (上)

(この記事の初出は2023年3月6日)

 先週の報道「先端技術では中国が44項目中37項目でアメリカをリードしている」は、各方面に衝撃を与えた。すでに研究論文数で中国が世界一になっているとはいえ、日本はまだまだ認識が甘い。そこを突かれた感じだ。
 防衛費の増強だの経済安全保障だのという議論は、この事実の前に意味を失う。
 もはや、日本が「技術立国」というのは過去の話。いまや、世界の4軍に過ぎない。

 

44項目中37項目で中国がアメリカをリード

 3月2日、有力メディアがいっせいに伝えたオーストラリアのシンクタンク「ASPI」(豪戦略政策研究所)のレポートの衝撃は、かなりのものだった。あの朝日新聞までもが、「日本には守るべき技術がなくなっている」という専門家のコメントを載せ、安全保障の危機を伝えたからだ。
 ASPIのレポートは、AIや防衛、環境などの分野に関連した先端技術について、「中国が44項目中37項目でアメリカをリードしている」というもの。発表された研究論文の引用数、特許取得の状況などからの結論で、44項目はミサイルに応用される極超音速技術や、次世代通信規格「6G」を含む通信技術のほか、燃料電池といった環境技術など多岐にわたっている。
 このなかで、アメリカが1位をキープできたのは、先端半導体関連、AIの自然言語処理、量子コンピュータ、ロボティクス、ワクチンなどの分野における特定技術の計7項目のみ。ほかの32項目で2位となり、中国の後塵を排している。
 最悪なのは、たとえば安全保障に直結するドローンの技術。中国は、ドローンが群れで攻撃する「群集無人機」に必要なロボット技術でアメリカをリード。群集無人機を防御する電磁パルスの技術においては、世界トップ10の研究機構のうち7機関が中国にあるという。

日本は韓国以下の4軍。守るべき技術なし

 アメリカが中国に遅れを取ったこともそうだが、日本にとってもっと衝撃的なのは、日本の先端技術が世界からはるかに遅れてしまったことだ。
 中国とアメリカ以外の国の5位位内に入った項目数を見ると、次のようになっている。
 英国・インド29、韓国20、ドイツ17、オーストラリア9、イタリア7、イラン6、カナダ・日本4
 なんと日本は、原子力や量子センサーなどのたった4項目だけ。韓国にも大きく敗けている。かつて「科学技術立国」と言っていたことがウソのようだ。
 朝日新聞記事では、東大先端科学技術研究センターの井形彬・特任講師が、「日本は2軍でも3軍でもなく4軍。守るべき技術がなくなっている」と述べている。
 昨年来、日本では「先端技術をいかに守るべきか」という経済安全保障の議論が盛り上がってきた。そうした背景もあってか、防衛費の増強も決まった。しかし、そもそも守るべき先端技術がなければ、経済安全保障など議論しても意味はない。また、先端技術がなければ安全保障にかかわる先端兵器もつくれないわけで、防衛費の増強も無意味だろう。
 なぜ、ここまで日本は情けない国になってしまったのか。それを思うと胸が痛むが、それ以上に情けないのは、この現状を多くの日本人、なにより政治家が認識していないことだ。いまだに、「中国なんかに負けているわけがない」という“化石アタマ”の人間がいることのほうが、じつは本当に情けない。

(つづく)

 

この続きは4月14日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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