連載983 いまさらなにが経済安全保障か。 中国が先端技術で世界を断然リードの衝撃! (下)
(この記事の初出は2023年3月6日)
中国の優位は繰り返し報告されている
中国の先端技術がアメリカを超えたという報告は、今回だけではない。これまで何度かあった。
たとえば、2022年3月、米オハイオ州立大学は、「2019年の科学研究の上位1%において、中国がアメリカと同水準、あるいは上回っている」という調査結果を公表している。
研究者の1人、オハイオ州立大学のキャロライン・ワグナー教授は、中国の上位1%の論文について「科学の最先端であるノーベル賞受賞と同水準と見なされるほど質が高い」と指摘した。
また、すでに技術力でも日本を上回ったとされる韓国でも、2022年4月、韓国科学技術情報研究院(KISTI)が発表した報告書「グローバル米中科学技術競争地形図」が、「中国の科学論文の数と質が、5つの分野でアメリカを超えた」と指摘している。
この報告書は、科学分野を10のカテゴリーに分類し、2000~2019年の論文数を各分野の引用索引数の上位1%の論文数と比較したもの。その結果、ナノテクノロジーやコンピュータ・情報科学など5つの重要な科学分野において、引用頻度がもっとも高い1%の論文数は、中国がアメリカの2倍を上回った。
論文の 引用索引とは、他の論文での引用回数を示す指標で、論文の質の評価基準となる。
じつは、韓国と同じような報告が、日本でもなされている。
2022年8月9日、文部科学省の研究所が公表した報告書は、中国は研究者による引用回数が上位1%に入る「トップ論文」でアメリカを初めて抜き、総論文数、引用上位10%に入る「注目論文」の数とともに首位となったと指摘している。
2017年、国際特許数でアメリカを追い抜く
論文引用数も指標の一つだが、国際特許数も各国の技術水準を表すとされている。基本的に特許は各国でそれぞれ出願登録されるが、「特許協力条約」(PCT)に基づくいわゆる国際特許を選択すれば、一つの国への出願よって複数国に出願したことと同じこととされる。
そのため、国際特許の出願件数を比較すれば、各国の技術力を評価できる。
じつは、この国際特許の出願件数に関しても、中国はダントツでアメリカを上回っている。
中国の国際特許出願数は、2000年にはわずか800件弱と、1位のアメリカの約4万件に遠く及ばなかった。もちろん、日本よりもはるかに少なかった。ところが2010年代に入って申請件数が急上昇し、とうとうアメリカを抜いて世界トップに躍り出た。
「OECD」(経済協力開発機構)によると、中国は2017年に科学論文の数でアメリカを、2019年にEUを追い抜いた。中国は、2020年の時点で、年間66万本以上の論文を発表しており、論文数が世界の学術文献に占める割合は、中国が21.2%、アメリカが15.6%、EUが19.7%となっている。
デジタル時代にふさわしい実用技術中心
中国の技術躍進を支えたのは、北京政府による莫大な研究開発投資である。
北京政府はいち早く、デジタルエコノミーの重要性に気づき、これまで官民をあげて取り組んできた。習近平政権は「科学技術大国」の看板を掲げ、バイオ・情報・新素材・先端製造・先進エネルギー・海洋・レーザー・航空宇宙の8分野で世界一を目指してきた。
米ハーバード大学ケネディスクールのシンクタンク「ベルファーセンター」によると、20年前にはアメリカの9分の1に過ぎなかった中国の年間研究開発投資額は、2020年にはアメリカの9割強に値する5800億ドルに達している。
また、「NSF」(アメリカ国立科学財団)によると、2018年のアメリカの基礎研究費が国の研究開発費に占める割合は17%(1010億ドル)で、中国は6%(260億ドル)だった。しかし、実験開発費となると、中国は83%で、アメリカの64%を上回った。これは、中国の技術開発がデジタル時代にふさわしい実用技術中心であることを物語っている。
さらに、中国の人材投資・育成は、アメリカのそれを上回っている。米ジョージタウン大学の「セキュリティ・新興技術センター」の調査によると、中国における科学、技術、工学、数学の博士課程卒業生数は、アメリカの2倍以上に達している。そのうえ、アメリカに留学して博士号を取った人材を破格の待遇で呼び戻している。彼らは「海亀族」呼ばれ、すでに中国国内に300万人超いるとされている。
中国は、国家目標を「5カ年計画」として実施している。最新の第14次5カ年計画は2021年から始動しているが、これによると、今後5年間で研究開発投資は毎年7%以上も積み上げられることになっている。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。