連載986 脱炭素社会、EV時代が来るなら
知っておきたい「リチウム」争奪戦の現状 (中)
(この記事の初出は2023年3月14日)
生産・供給は豪州、南米、中国に偏っている
リチウムは地球上に広く分布しているが、反応性が高いために単体としては存在していない。火成岩や塩湖かん水中に多く含まれている。
現在、リチウムの埋蔵量は推定で1億1000万トン(炭酸リチウム換算)とされる。いま、この争奪戦が激化しているわけだが、じつはリチウムは海水中にも存在する。海水のリチウム含有量は推定23億トンとされるので、それを抽出する技術開発が行われているが、実用化には程遠い。
ちなみに、日本では日本原子力開発機構が開発を進めている。
リチウムの供給先を見ると、オーストラリアが世界最大の生産国であり、世界の供給量の約半分(48%)を占めている。 それに続くのがチリ(29%)、アルゼンチン(9%)、中国(9%)となっている。
つまり、リチウムの生産・供給は、オーストラリア、チリ、アルゼンチン、中国の4カ国に偏っている。
そのほかの国では、ブラジル、アメリカ、ジンバブエ、カナダが合計で総供給の5%を占めている。また、ロシアやフィンランドなどでも、少ないが生産が行なわれている。
生産方法は塩湖かん水と鉱床採掘の2通り
リチウムの生産方法は大きく分けて、塩湖の塩湖かん水(塩分を含んだ水)から生産する方法と、鉱床から鉱石を採掘する方法の2通りがある。
塩湖かん水からの生産は、チリ、アルゼンチン、中国、アメリカが代表的で、鉱床採掘はオーストラリアが代表的だ。
塩湖かん水からの生産方法は、塩湖の水を組み上げて乾燥させ、濃縮池で濃縮させた後、さらにリチウム濃縮機に入れて生産する。鉱床採掘からの生産は、「スポジュメン鉱石」(リシア輝石)を採掘し、それを精製して生産する。
ちなみに、塩湖かん水から生産する場合、コストは1トン当たり約4000ドルとされ、鉱石採掘の約5000ドルより安いという。
塩湖かん水やスポジュメン鉱石から生産されたリチウムは、主にリチウムイオン電池の材料として用いられ、EV搭載バッテリー、PC、スマホなどに使用される。
したがって、その供給(サプライチェーン)は非常に大事だが、供給先は2カ国に偏っている、チリと中国である。この2カ国のリチウム輸出は、世界全体の約8割を占めている。
なぜ、生産量が世界一のオーストラリアが供給先に入っていないかというと、スポジュメン鉱石そのものはオーストラリアで生産(採掘)されるが、それは中国に運ばれてそこで炭酸リチウムに精製されるからだ。炭酸リチウムという化合物で見ると、世界の中国依存度は5~6割にも達する。
もちろん、日本はリチウムを一切生産しておらず、供給は100%輸入に頼っている。
リチウムを需要面から見ると、車載用リチウムイオン電池の生産メーカーである中国のCATL、韓国のLG、日本のパナソニックの3社が圧倒しており、この3社で世界全体のリチウム輸入の約8割を占めている。
(つづく)
この続きは4月20日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。