津山恵子のニューヨーク・リポート
Vol.7 メディアが伝えるメッセージ 差別から人権意識へ
女性は、社長や政治家に向かないと思う。男性同士がキスするのは気持ち悪いと思う。新型コロナウイルスに感染した人は、だらし
ない人-。こうした根拠のない「差別意識」は私たちの中で、どうやって育まれるのだろう。それをどうやって、「人権意識」に変えていったらいいのか。
特に日本は、私たちが住むアメリカのように、人種や宗教、LGBTQなど二重三重の多様性に晒される環境がない。私が女性であるため、一時帰国すると年齢や「夫や子どもはいるのか」「ニューヨークの家賃は誰が払っているのか」といまだに聞かれる。つまり、人口の半分を占める女性に対しても、差別による不当な認識がアメリカよりも根強い。
一方、アメリカの若い人を代表するZ世代は、2000年代終わり〜2010年代始めに生まれた。生まれた時にすでにスマートフォンがあった人類最初の世代だ。学校のクラスで、非白人が半分を超えている。小学生のころから同性愛者であることを意識し、自分が感じるジェンダーのファッションをまとう。つまり、過去の世代がフラストレーションを感じてきた「差別意識」が最も希薄な世代でもある。
これに対し、日本のZ世代には、アメリカほどドラマティックな変化はない。彼らに、多様性を受け入れれば、将来誰もが心地よく生
きられることを知ってもらうにはどうしたらいいか。人口減少が進む中、多様な人々を労働力に取り入れていくことも国として喫緊の課題だ。
「これは!」と答えのようなものを感じたのは一時帰国中に見た展示会だ。
私が向かったのは、横浜にあるニュースパーク(日本新聞博物館)。4月22日から企画展「多様性 メディアが変えたもの メディアを変えたもの」が始まった。新聞を含むメディアは、日常生活に潜む差別や区別の問題をどう伝えてきたのか?企画展は、新聞が多様性を伝えるために取り組んできた過去の報道ぶりを詳しく伝える。革新的な展示会だ。紹介するのは、日本の近代において、女性、民族、障害、疾病を理由にした不当な差別についての記事だけではない。今日のLGBTQ、犯罪被害者、外国人労働者、在日コリアン、中国残留邦人などを含む日本社会の多様性をメディアがきちんと伝えていることも展示でわかる。「男性らしさ」が求められるプレッシャーでさえ伝えている。
メディアを使えば、「教科書には載っていない今日的な出来事を紹介し、多様性の大切さを教えられる」と、展示会を見ながら、感じた。記事には、生の人間が当事者、被害者として登場する。そこにはリアルなメッセージがある。
「多様性」展示会は、8月20日まで開催されている。夏休みに帰国予定の家族や教育関係者には、訪れてほしい。
https://newspark.jp/exhibition/ex000318.html
津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。