インタビュー アーティスト 植村 花菜さん【第二部】
社会現象となった「トイレの神様」は2010年の大ヒット曲。シンガーソングライターの植村花菜さんは、ジャズドラマーの旦那さまと一緒に、8歳になったばかりの息子さんの子育てに奮闘するママさんとしての顔も持つ。子育てなんて言葉はおこがましい!ときっぱりと言い切る花菜さんから、幼少時代やご家族、コロナ禍による一時中断を挟んだ旦那さまと息子さんとのNY生活について、人生の深いところまで掘り下げる興味深いお話を伺った。
第二部 想像力と考える力を育む
―日本とアメリカで子育てに違いを感じますか?
日本だとみんなに合わせて自分もきっちりしなきゃと思ってしまいます。でも、アメリカだとみんな他人のことは気にしないし、まわりのことを気にしなくていいというのが圧倒的に違いますね。子どもに対してもウェルカムな空気があると思います。NYにも不便さはもちろんあって、気軽に入れるトイレが少なかったり汚かったり、エレベーターやエスカレーターが各駅になかったりするので、 そういうところは日本の方が圧倒的に楽です。でも、精神的な面ではNYの方が子どもを育てるのは楽ですね。
―今2年生の息子さんですが、NYの学校はどうですか?
日本だと公立の小学校ならどこでも同じことを勉強してますが、こちらでは入る学校でぜんぜん違うのが面白いですね。息子が通っているエレメンタリースクールは教科書も宿題も無くて、遊びから学びを覚えて自分で考える力を大事にする学校です。その分、ミドルスクールに入る時に学力がどうなのかという心配はありますが 。パンデミックの最中はNYに帰ってこられなかったので、日本に2年いて幼稚園も小学1年生も経験しましたので、これはあまりにも違うなとびっくりして。
―日本だと毎日宿題が出ますよね。
こんなに?と思うくらい大量の宿題を抱えて帰ってきて、終わるまで遊びに行けないからすぐやるけど時間もかかるし。でも、NYは同じ学区でもチャータースクールだと プリKからすでに 宿題があるそうで、本当に学校によってぜんぜん違うんです。今の学校も4年次、5年次になったら学力の方もカバーするということですが、真実は定かではありません (笑)
―息子さんの反応はどうですか?
どういうわけか 、勉強がすごく好きなんですって。私は勉強がすごく嫌いで、教科書を家に 持って帰ったこともなかったんですけど(笑)だから最初は「今の学校は勉強が無いから不満だ」と言ってましたね。賢くなりたいらしくて、漢字や日本の算数も自分で勉強してます。こちらの勉強も『ブレイン・クエスト』を使って自分でやってます。
―頼もしい(笑)
でも学校は楽しんでいて、実験をしたり自分でものを作るサイエンスの授業が好きで、これから橋を作るんですって。仕組みがどうなってるのか最初から作って学ぶというプロジェクトだそうですよ。
―NYにはこのまま居られる予定ですか?
いちおう10年を節目に考えていて、その時に家族でどういう景色が見えているかによって、行きたい場所や住みたい場所があったら引っ越すことも 考えてみようかなと。息子が高校生になるくらいのタイミングで一度考えてみようかと思っています。
―大学に行くにも日本とアメリカでは準備もかなり違いますしね。
大学に行くかどうかもまだ分からないですけどね。今はジャズヴァイオリニストになりたいらしいですよ(笑)去年は指揮者になるってずっと言ってて、それでヴァイオリンを始めたんです。
―どういうきっかけで?
パンデミックで日本にいたときにシュタイナー教育の本を読み直して、テレビは完全に受け身なので、幼い子どもの場合は 自分でものを考える力を奪われて 、想像力が失われていくので、7歳までは見せない方が良い、という話がとても気になりました。元々そんなに見ていたわけではないけれど、7歳までのイマジネーションの世界を大事にしたいと思って、当時5歳だった息子と相談したんです。想像力や考える力がなくなるらしいよ?、って。本人もそれは嫌だなぁというので、一緒に話し合って、テレビをやめることにました。 でも、翌日になったらすっかり忘れて 、テレビ見たい!と言うので、また同じ話を繰り返して説得したんです。すると 息子が、じゃあ何したらいいかわからない!って言ったんですよ。それがまさに考える力を奪う テレビの影響じゃない?となりまして。
―自分で考えられなくなっていると?
じゃあ何をしたらいいか一緒に考えようということで、絵を描くのは?、本を読むのは?、おもちゃで遊ぶのはどう?、と聞いても、どれも気分じゃない、と断られて。それでもめげずにひたすらアイデアを 投げていくと、いずれ何かが ヒットするんですよ。それで、じゃあ今日はこれをやってみよう !と一緒にやってその日を乗り越えました。でも、また次の日になったら同じことの繰り返しで、それをひたすら一週間繰り返したんです。
―親御さんにも試練ですね。
はい。かなり根気がいります でも、一週間経ったらぱたっと「テレビ観たい」 と言わなくなったんです。自分から今日はあれやろうかな、これやろうかな、と、どんどんアイデアが湧いて来るようになって。それを見て、あぁこれだったんだ、と思いました。それで7歳までテレビは見ませんでした。
―親御さんも楽だからついテレビを見せてしまうのかもしれませんね。
そうなんです。本当に楽なんですよ、テレビやゲームがあると。でも、それがない分、親が子供と接する時間も増えるし、子どもが何に興味を持っているのか、どういうことができるのかも分かるし、後々楽になると思います。最初は大変ですけどね テレビもゲームもあるからやってしまうだけで、無ければ他にやりたいことがあるかも しれないのに、中毒的に夢中になって自分で思考することを忘れて没頭してしまう。おかげさまで 、今の息子はどこへ行っても紙と鉛筆さえあれば、何時間でもひとりで過ごせています。
―ヴァイオリンもその一環で?
実家でもテレビの件について 協力してもらってたんですが、母が無音に耐えられないからとYouTubeで静止画の長時間のクラシック特集を流していて、そのうち息子がこれは誰の曲?と聞いてくるようになって。自分が モーツァルトと誕生日が同じだということは知ってたので、クラシックに 興味が湧いたのかもしれません。そしたら、ある日自動再生で流れたオーケストラの動画に息子が釘付けになりまして。6歳のときです。
―動く映像は久しぶりですしね(笑)
カラヤンのオーケストラだったん ですが、なぜか 指揮者がかっこいいと思ったみたいで、突然 ヴァイオリンをやろうかなと言い出して。それから一年間は指揮者になることが夢でした。 でも、主人が連れて行ったジャズの セッションがすごく楽しかったみたいで、今はジャズヴァイオリニストになりたいと(笑)だいたい一年単位で興味が変わってるようなので、次は何を言い出すのか楽しみに見守っています。
取材・文:合屋正虎