インタビュー アーティスト 植村 花菜さん【第三部】
社会現象となった「トイレの神様」は2010年の大ヒット曲。シンガーソングライターの植村花菜さんは、ジャズドラマーの旦那さまと一緒に、8歳になったばかりの息子さんの子育てに奮闘するママさんとしての顔も持つ。子育てなんて言葉はおこがましい!ときっぱりと言い切る花菜さんから、幼少時代やご家族、コロナ禍による一時中断を挟んだ旦那さまと息子さんとのNY生活について、人生の深いところまで掘り下げる興味深いお話を伺った。
第一部 自分が変わった方が早い
第二部 想像力と考える力を育む
第三部 家族は幸せに暮らすためのチーム
―仕事で音楽に向き合う時間と、ママとして息子さんに向き合う時間のバランスはどうされてますか?
昔はいついつまでにこれをやる!と予め 決めて動くタイプだったんですが、最近は流れに身を任せています 。やるべき時が来れば仕事がたくさんあるし、しなくていい時には無い。子どもと接するべき時にはちゃんとその時間があるし、あまり接することができない時もあるし。
―自然体な子育てということですね。
子育てしてる、という感覚はまったく無いし、持たないようにしています。そもそも人を育てるということは出来ない思っています 。大人でも子どもでも。「子育て」なんて、言葉からしてもおこがましくないですか?私も息子に育ててもらっているので。ただ 、息子が今何に興味があって、どういうことを教えてあげたら個性が花開くのか、それは注意深く 観察しながら、どうすればその特徴を活かすお手伝いが出来るかいつも心を配っています。
―お母さまのありのままを受け入れる話とも似ていますね。
家族は毎日幸せに暮らすためのチームだと思っているんですよ。誰が欠けてもダメで、家族3人で毎日いかに楽しい時間を過ごせるかは、お互いに協力して頑張らないといけない。一人ではできない。家族であり、幸せに生きるためのチームでもあるんです。
―旦那さまのチームでの役割は?
私は主人無しでは生きていけません(笑)私が精神的に余裕を持って息子と接せられるのも、主人がいるからです。子育てで悩んだり迷ったりすれば話を聞いてくれますし、話してるうちに答えが見つかったりします。余計なアドバイスなどをせずに、ただ話を聞いてくれる。性格も穏やかで私とは 真逆な人なので、息子への接し方もお互いバランスが取れています。やり方は違うけど、目指してる方向は一緒だと感じます。主人は 料理も掃除も家事は全般できるので、普段は半々、どちらかが忙しい時はお互いその分を多めにやる形で分担しています。
―息子さんが分からないことを聞いてきた時はどうしてますか?
分からない言葉があれば、まず辞書を引くように言っています。自分でできる手段を尽くしてもわからなかった ということであれば、ママかパパが答えるようにしています。私も分からない時には一緒にググります(笑)学校の勉強も、分からないと言ってきても答えを最初に教えることは無いです。なんとか自分で答えを導けるように手を尽くします。時間かかりますけど
―自分の頭で考えるということですね。
私とおばあちゃんは五目並べが大好きで、毎日一緒に やってたんです。四三という技を使うと勝てるんですが、私が考えなしに石を置こうとすると、ホンマにそこでええのん?とおばあちゃんが 言うんです。よくよく見るとおばあちゃんの四三ができかけていて、それを私が慌てて防ぐ。それを毎日繰り返して鍛えられて強くなりました。おばあちゃんは絶対に答えを 直接は言わずに、私に考えさせていました。
―一度立ち止まってよく考えるようになったのでしょうか?
立ち止まるというより、掘り下げる考え方が根付いたかもしれませんね。私は思ったらすぐ行動してしまうタイプですが、動きながらこれでいいのか?といつも考えています。自分も好奇心を持ち続けたいし、息子にも好奇心を持ち続けてほしいし、生きるということは一生死ぬまで学ぶ、成長する ということだと思っています。学びたいことを一生持ち続けてほしい。年を取ったら成長しないなんてことは ないですから。生きることにゴールは無いので、学びながら成長し続けてほしい。
―息子さんと話す時間を特別に作ったりしてますか?
ご飯の時や、自転車での送り迎えの時に今日はどうだった?と自然と話します。お喋りも好きだし、やったことのないことには何でも興味を持つ子なんです。食わず嫌いなんて言葉が信じられないくらい、知らないものはまず食べてみたいタイプです。それに、一回食べて美味しくなくても定期的に再チャレンジするんです。
―悔しいんですかね(笑)
どうしてなんでしょうね?(笑)ただ、子どもの頃から、物でも感情でも執着は持たないようにしよう、と繰り返し言っています。なるべく受け入れて手放す。おもちゃでも何でも、そうすれば一番心穏やかに暮らせるんだよ、と。2歳の頃からずっと言ってるんですが、どうもよく理解してるみたいなんですね。だから、もしかしたら好き嫌いの感情もそういう風に捉えてるのかも。
―またしても仏の教えのよう(笑)それでいて、息子さんのことを別人格と認めて対話を大事にするのはアメリカ人の親子みたいです。
赤ちゃんの時から対等で意見も必ず聞いて、子ども扱いは絶対しないです。子どもに言っても分からないでしょ?と言う人もいますが、私はむしろ大人よりも子どもの方がよく分かってると思います。 大人のこともよく見てますしね 。ただ、子どもには自分が分かっているかいないかを表現するのが難しい時があると 思います。分かった?と聞いても、う〜ん分かんない、ということは多い。じゃあどう伝えたら分かるのかということを一生懸命考えて、息子が理解できる言い方で一生懸命説明してみれば分かり合えるんです。伝わってない時 は、私 の伝え方が悪いからだと思ってます。
―いつも全身全霊で向き合っていますね。
親や大人からの子どもに対する影響力はすごいと思っています。 良い影響だけでなく、悪い影響も。価値観って自分のものだと思っていても、無意識に世の中に植え付けれられていることがあるじゃないですか。だから、なるべく親の影響を受けずにフラットに育ってほしいんです、ママが言ってることが正しいとは限らないし、自分がどう思うかが大事なんだよ、間違ってると思ったら意見してね、と。私の努力としては、いかに息子が息子のまま育ってくれるか。親の価値観や考え方に汚染されず、そのまま育ってほしい。個性を壊さないように育ってもらうことが親にできることじゃないかと。とは言え ついアドバイスをしてしまったり、なかなか 難しいですけど、いろんな チョイスの中から本人が自分で考えて選んでほしいと思っています。
取材・文:合屋正虎
第一部 自分が変わった方が早い
第二部 想像力と考える力を育む