第5回 小西一禎の日米見聞録 米国の公教育にあって、日本にないもの

第5回 小西一禎の日米見聞録 米国の公教育にあって、日本にないもの

 

日本では3月13日以降、コロナ禍で長らく続けられてきた自主的なマスク着用が原則不要となった。にもかかわらず、マスクを外す動きはほとんど広がりが見られず、日本中にマスク姿の人が今も溢れている。厚生労働省は「個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本となる」と呼び掛け、個人に委ねられる点を強調しているものの、「主体的な選択」や「個人の判断」は果たしてどこにいったのだろうか。あるいは、他人と異なることをするのにやはり抵抗があるのか。ちなみに、私は満員電車に乗る時と病院を訪れる際を除き、着用していない。

同調が求められがちな社会と、個性が尊重される社会。やや雑ぱくに分類すれば、日本と米国双方の社会はこのように言い表すことになろう。社会を構成する個人の集合体が表出するのを国民性と位置付ければ、その国民性が形成される過程は、国民に施される教育方針にも大きく左右される。民主主義社会において、とりわけ公立学校は、その国の縮図と言っても過言ではない。日米の公教育は、何が異なっているのだろうか

 

とにかく褒めて、自己肯定感を育む

子どもが通った米国の公立小学校で、驚いたことは数知れない。ざっと挙げてみただけで、
①使用する文房具は新学期前に持ち寄ってシェアする
②先生は、子どもを保護者に送り返した後、直ちに帰宅する
③本場のPTAは、日本のPTAと本質的に異なっていた
④貧困家庭の児童にスクールランチが無償提供される
⑤ギフテッド教育が公立校で実施される
⑥学校指定の服装(体育着)がない
ーなどだ。

とりわけ、衝撃を受けたのは、先生が各児童の長所を見出して、とにかく褒めることだった。間違いなく、自己肯定感が育まれるに違いない。パンデミック直後、即座にオンライン授業に移行したこと自体、大いに感心したものだが、そのためもあって、連日授業参観を体感できたゆえの産物だ

 

算数セットのシール貼りは苦行

逆を言えば、上述した驚きは、日本の公教育にないからこそ、驚いたのである。先生の残業時間の多さは社会問題化。本場PTAは、強制力がなく自由参加だ。体育着や給食着は指定され、持ち物の布製かばんは記名欄の位置や大きさまで決められている。算数セットのおはじきなどに名前シールを貼った際は、親の苦行そのものだった。例外はあろうが、個性よりも均一や画一であること、規律や決まりの重視がとにかく求められる。言ってしまえば、かなり窮屈だ。

首世界で話題を席巻している「ChatGPT」を開発した米国のベンチャー企業「オープンAI」のサム・アルトマンCEOが4月10日に来日し、首相官邸と自民党を足早に訪れた後、用件は済んだとばかり早々に離日した。賛否両論が交錯する対話型AIの是非を、ここでその是非を論じるつもりはないが、アルトマン氏は37歳。次から次へと、若い俊英が飛び出す米国の教育背景はただただ興味深い。

この原稿を書いていた土曜日の昼下がり、衝撃的なニュースが飛び込んできた。衆院補選の応援演説で和歌山市を訪れていた岸田文雄首相に対し、筒状のものが投げ込まれたのだ。警護官(SP)が即座に首相に覆いかぶさり、けがはなかったが、その後、爆発し、危ういところだった。安倍晋三元首相が凶弾に倒れたのも、昨夏行われた参院選の街頭演説の最中だった。

同じく昨夏の参院選で、私の母校である仙台二高(宮城県)で、3年生の女子生徒が選挙の仕組みを説明する手作りポスターを校内に張り出したところ、教員から「政治的活動に当たる」、「選挙に絡めないで書いて」などと言われ、はがすのを余儀なくされた。生徒がツイッターで発信し、メディアが取り上げたこともあり、学校側は生徒に謝罪し、張り出しを認めたものの、OBとして実に残念な事案だ。

18歳にも選挙権が付与され、主権者教育はますます欠かせない。単なる政治の仕組みだけでもクレームが飛ぶ次元を超えた民主主義教育を展開しないと、政治家への「攻撃」が繰り返される恐れがある。2020年の大統領選時、子どもの小学校担任が各立候補者の人物像を説明し、「自分が大統領になったら、何をしたい?」と児童に尋ねていたのが思い出される。

(了)

小西 一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト。慶應義塾大卒後、共同通信社入社。2005年より本社政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い休職、妻・二児とともにニュージャージー州フォートリーに移住。在米中退社。21年帰国。米コロンビア大東アジア研究所客員研究員を歴任。駐在員の夫「駐夫」として、各メディアへの寄稿・取材歴多数。「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。執筆分野は、キャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、メディア。著書に『猪木道――政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。

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