連載992 追い詰められたプーチン・ロシア  ウクライナ戦争で分断された世界経済の今後 (上)

連載992 追い詰められたプーチン・ロシア  ウクライナ戦争で分断された世界経済の今後 (上)

(この記事の初出は2023年4月4日)

 

ロシア軍のドンバス奪取作戦は失敗か

 どうやら、ウクライナ東部のドンバス地方におけるロシア軍の敗色が濃厚になってきた。さまざまな報道、SNS情報、プロパガンダなどが入り乱れているが、これまでの経過を見ると、英国の国防省の戦況分析がいちばん的確と思われる。
 4月1日、英国国防省は、ロシア軍のドンバス大規模攻勢について「失敗がより明白になっている」という声明を出した。この地での要衝はドネツク州北部のバフムトで、ロシア軍とワグネルはここを陥落させようとしてきたが、あまりの犠牲の大きさに進撃できなくなっているというのだ。すでに、撤退を始めたという情報も出ている。
 英国国防省の声明が出る前、チャールズ国王とカミラ王妃がドイツを訪問した。この訪問で、チャールズ国王は異例の政治的発言をした。
 チャールズ国王はシュタインマイヤー独大統領主催の晩餐会の席で、ロシアのウクライナ侵攻を「言われなき侵略」と非難し、こう述べたのだ。
「われわれは自由と主権を守るためにウクライナと団結する」
 この発言の背景には、英国がこれまで以上にウクライナへの軍事援助を強化したことがある。英国は、これまで地対空ミサイルから戦車、自走砲などを供与したうえ、ウクライナ軍の軍事訓練も行なってきた。これらは、今後、ウクライ軍が反転攻勢に出るために必要なものだ。

じきにウクライの反転大攻勢が始まる

 ネットには、ウクライナ軍のミサイル攻撃によりロシア軍の装甲車が次々と爆発する映像がアップされている。炎上した煙のなかから一目散に逃げるロシア兵の姿が生々しい。今後、欧米からの戦車や対戦車砲、ドローン、地対地ミサイルなどが次々に投入されれば、こうした光景が繰り返されるのだろう。
 ウクライナ政府は、欧米諸国からの新兵器が到着次第、順次前線に投入し、反転攻勢をかけることを表明している。ロシアに奪われた領土をすべて奪還するとしている。
 この反転攻勢の鍵を握っていたのが、ロシアが陥落させようとしていたバフムトだ。ロシアは、ここにワグネルの精強部隊まで投入したが、ウクライナは守り抜いた。ただし、映像を見ると、街は完全に廃墟となっている。

この戦争に終わりはあるのか?

 ウクライナ軍の反転攻勢が、はたしてどこまで行くのかはわからない。西側がこのまま兵器援助を続けるかどうかによって、奪還できる領土の範囲は決まるだろう。
 日本でロシアの専門家とされる小泉悠氏や河東哲夫氏の見方を私は常時チェックしてきたが、この2人は早くからウクライナ戦争は長引くと言ってきた。
 なぜなら、領土を奪われたままのウクライナとロシアが、いかなる理由があれ停戦してしまうと、世界のあるべき秩序が崩壊してしまうからだ。すでに有名無実化している国連は完全に無意味となり、この世界は「ジャングルロー」(弱肉強食)が支配する世界になってしまう。
 ウクライナには、独立を守り、戦争を続けていく意思はあり余るほどある。しかし、継戦能力がない。それを支えているのは、アメリカを筆頭とする欧米諸国からの武器などの無償供与である。つまり、西側がこれを続ける意志がある限り戦争は継続する。
 ウクライナは、2014年以前の領土、つまりクリミア半島まで回復することを停戦の条件にしている。ただ、仮にそこから多少譲歩できたとしても、現状はそれにははるかに遠い。


(つづく)

 

この続きは5月4日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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