連載993 追い詰められたプーチン・ロシア  ウクライナ戦争で分断された世界経済の今後 (中)

連載993 追い詰められたプーチン・ロシア  ウクライナ戦争で分断された世界経済の今後 (中)

(この記事の初出は2023年4月4日)

 

追い詰められた「戦争犯罪人」プーチン

 当初、プーチン大統領は、ウクライナの首都キーフは簡単に陥ちると考えていた。少なくとも1週間以内には占領できるので、ゼレンスキー大統領は西側に逃亡して亡命政権をつくらざるを得なくなる。そうなれば、キーフに親ロ政権を樹立し、ウクライナを自国領と宣言する。クリミア方式が成功すると考えていた。
 しかし、実際は欧米諸国がウクライナを見捨てなかったために、戦争は長期化し、NATOの東進は逆に進んでしまった。フィンランドのNATO加盟が決まり、おそらくじきにスウェーデンの加盟も承認されるだろう。まさに、プーチンの大誤算である。
 現在でもなお、ロシアは十分持ちこたえている。西側の制裁は効いていないとする見方があるが、実際はプーチンはかなり追い詰められている。
 それは、彼の行動に表れている。先日、プーチンはウクライナ侵攻後初めて占領地を訪問した。なかでも南部の激戦地だったマリウポリを予告なしに訪問し、住民に歓迎される映像を公開した。
 占領政策がうまく行っていれば、こんな「ヤラセ」を行う意味はない。この「ヤラセ映像」に対して、ウクライナ側は「あのプーチンは替え玉だ」と指摘したので、私も映像を何度も見た。ただ、なんとも言えない。
 ベラルーシへの戦術核の配備も、プーチンの焦りの表れだ。彼は、こうした脅しで、なんとか現状を打開したい。欧米のウクライナ戦争への継戦意志を削ぎたいのである。
 さらに、国際刑事裁判所(123カ国が参加)によって、「戦争犯罪人容疑者」とされてしまったことも、プーチンの焦りを誘っている。これで、プーチンは主要国に行けなくなった。

習近平頼みの中ロ首脳会談は失敗か

 追い詰められたプーチンがすがったのが、中国である。プーチンの要請と、中国側のしたたかな計算によって、習近平主席は、3月20日から22日までモスクワを訪問し、プーチンとの中ロ首脳会談に臨んだ。
 会談後の共同声明で、「両国関係は歴史上最高のレベルに達し、着実に成長している」と発表されたが、なにか成果があったのだろうか?
 報道によると、ウクライナへの軍事支援を強める欧米をけん制しただけで、具体的にはなにも進展しなかったとされる。それもそのはず、両者の思惑はまったく違っていたからだ。
 プーチンの目的は、「中国からの武器・弾薬の援助」と「経済支援」である。一方、習近平の目的は「ロシアへの影響力を強めて経済的利益を得ること」と「ウクライナ戦争の和平を仲介して国際社会における中国のプレゼンスを高めること」だからだ。
 結局、ロシアは中国側が用意した「停戦案」を、「西側とウクライナは受け入れる準備ができていない」と、西側のせいにして拒否。さらに、武器・弾薬の援助の確約も得られずじまいに終わった。(ただ、裏取引があったかどうかは確かめようがない)
 中身がないから、「両国関係は歴史上最高のレベル」と言うほかなかったのである。現在、ロシアを公に支持する国は、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリアの4カ国しかない。

「ポストプーチン」を見据えたしたたか戦略

 ウクライナ戦争でのプーチンの失敗を見て、習近平はロシアの足元を見るようになった。欧州に売れなくなった石油と天然ガスの購入を肩代わりすることになったが、その価格は5掛け以下と観測筋は伝えている。つまり、中国はロシアを援助しているのではなく、ロシアの窮地につけ込んで、石油と天然ガスを買い叩いているのだ。
 その結果、ロシアの貿易赤字は膨らむ一方で、財政も悪化の一途をたどっている。中国は人民元取引も押し付け、ルーブルは長期下落傾向から脱せられない。インフレ率も10%を超えたままで、政策金利も7.5%と高止まりしている。
 中国がしたたかなのは、今回の首脳会談外交で、習近平一行がミシュスティン首相を中心とする閣僚たちとも会談したことだ。さらに、プーチンに加えて、ミシュスティンにも「年内に中国に来てください!」と招待の要請をした。
 ミシュスティンは現在のところ、ロシアのナンバー2であり、プーチンが失脚したら大統領代行になる。
 さらに、習近平一向は、実質的なナンバー2とされる安全保障会議書記ニコライ・パトルシェフともコンタクトを持った。パトルシェフは、息子のドミトリー・パトルシェフ農業相を、次期大統領にしようと画策していると言われている。
 来年、ロシアでは大統領選挙がある。中国は「ポストプーチン」も見据えて行動しているのだ。


(つづく)

 

この続きは5月5日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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