連載998 カーボンニュートラルで、 やがて中国が一人勝ちするという「悪夢」 (下)

連載998 カーボンニュートラルで、 やがて中国が一人勝ちするという「悪夢」 (下)

(この記事の初出は2023年4月11日)

 

脱炭素はポーズ(見せかけ)に過ぎない

 一つは、それまでに世界の主要国のほとんどがカーボンニュートラルを表明しているので、これ以上先延ばしにすると批判が強まり、経済的にまずいと判断したからと思われる。
 しかも、中国はトランプ前政権によって経済戦争を仕掛けられ、「ディカップリング」(中国排除)が進みつつあった。さらに、新型コロナのパンデミックが起こり、その発生源としての中国への批判が強まっていた。つまり、そうした批判を交わすための表明だと言うのだ。
 確かにこの見方は当たっている。しかし、それが本当の理由なら、中国の脱炭素はポーズ(見せかけ)に過ぎないということになる。
 なぜなら、中国は石炭火力を削減するどころか、2021年になると、コロナ禍によるエネルギー事情の逼迫を理由に石炭火力発電所を新設・増設したからだ。その総出力は38.4ギガワット。これは、世界のほかの地域で新たに建設された石炭火力発電所の3倍以上に上っている。
 中国で石炭火力が総発電量に占める割合は60%を超えていて、コロナ禍の期間中はさらに増加した。

温暖化を利用し経済覇権の確立を目指す

 しかし、中国がカーボンニュートラルを表明したもう一つの理由が考えられる。それは、2060年なら十分達成できるという自信を持った。そして、そうすることにより、「中国の夢」である経済覇権を達成できるからという見方だ。
 どちらかと言えば、この見方のほうが的を射ているだろう。
 なぜなら、いまや地球温暖化を科学で論じる時代ははるかに過ぎ、地球温暖化は経済問題となっているからだ。中国は、古代から「商」(経済)の国である。共産党独裁政権とはいえ、経済第一である。
 実際のところ、中国は石炭を燃やし続ける一方で、再生可能エネルギーへ世界でも最大級の投資を続けてきた。その結果、再エネが総発電量占める割合は約30%にまで達し、風力発電、太陽光発電とも、その設備においては世界一の提供国になっている。 
 また、中国はEVの普及にも、これまで世界最大級の投資をしてきた。中国のEVメーカーの一つ「BYD」は、いまやEV販売台数でテスラに迫る勢いである。

中国の立ち位置はウクライナ戦争で有利に

 現在の中国は、EVにしても、バッテリーや太陽光パネルにしても、温暖化対策に突き進む世界の国々に「メイドインチャイナ」を買わせようとしている。欧州は「e-fuel」のエンジン車を例外としてEV1本化一直線だが、欧州の自動車メーカーは中国生産のバッテリーがなければEVはつくれない。
 世界第4位のCO2排出国ロシアが起こしたウクライナ戦争も、現在の中国の立ち位置を有利にしている。引き起こされたエネルギー危機が、中国に石炭火力を使い続ける口実を与えている。当のEU、とくにドイツがそうせざるを得なくなったのだから、中国は笑いが止まらないだろう。
 一方で石炭火力を使い続け、一方で再エネ、EV化などの地球温暖化対策に邁進する。この中国の戦略は、このまま欧州とアメリカがカーボンニュートラルに向かって突き進めば進むほど、中国を儲けさせることになる。
 「2060年カーボンニュートラル」宣言に続いて、2021年、習近平主席は、中国の石炭使用量を2025年までにピークアウトさせると発表した。しかし、この目標が多少ずれ込んでも他国は文句は言えない。いまのところ、中国は石炭火力削減に向けての国家としてのロードマップを示していない。


(つづく)

 

この続きは5月12日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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