連載1000 「温暖化敗戦」確定か! 「GX推進法案」は原発推進でエネ転換は先送り  (上)

連載1000 「温暖化敗戦」確定か!
「GX推進法案」は原発推進でエネ転換は先送り  (上)

(この記事の初出は2023年4月18日)

 G7の環境サミットで、EVの数値目標や石炭火力の廃止時期が決まらなかったことで、主要メディアは「日本の立場が受け入れられた」と言っている。しかし、そんなことに安堵していていいのだろうか? 
 現在、開かれている国会では、日本の脱炭素、地球温暖化対策を決定づける「GX推進法案」が間もなく成立する。しかし、その内容は、これで本当に「2050年カーボンニュートラル」が達成できるのかと思わせるひどいものだ。
 主要メディアは批判しないが、これでは日本の「温暖化敗戦」は決定的ではないだろうか。温暖化問題は、いまや経済問題となり、世界経済は「気候経済」(気候変動に対応した経済)に移行している。

 

G7はEV、石炭火力、原発で日本を容認

 4月16日、札幌市で行われていたG7環境サミット(気候・エネルギー・環境相会合)が閉幕し、共同声明が発表された。G7環境サミットは、今後の世界の地球温暖化対策をリードしていくものとして毎回注目されてきたが、今回は取り立てて成果はなかった。
 焦点とされた、自動車分野でのCO2削減で、EVなどのZEV(ゼロエミッション車)の数値目標は盛り込まれず、石炭火力の廃止時期も明記されなかったからだ。
 採択された声明は、自動車分野のCO2削減に関しては、2000年比で2035年までに50%削減することが決まった。これは、日本車が世界をリードするHVを含めた削減目標だから、EV一直線政策を進めるドイツを含めた6カ国が日本に譲歩したかたちになった。
 石炭火力発電においても、6カ国は日本に廃止時期を明言することを要求したが、ドイツがウクライナ戦争のとばっちりで一時的に復活させたこともあって、「段階的削減」にとどまった。
 もう一つ、もっとも注目された原子力発電についても、日本は推進することへの理解を引き出した。
 こうしたことを受けて、日本の報道は歓迎、安堵ムード一色になった。主要メディアのなかには、「外交的勝利」と報じたところもあった。
 しかし、そんなことでいいのだろうか?

日本は脱炭素に「非協力国」「ゴネ国」

 今回のG7環境サミットの結果は、日本から見たのと、脱炭素政策を強力に進める欧米側から見たのでは大きく異なる。
 原子力発電に対して見れば、言うまでもなく日本は推進派で、すでに再稼働・新規開発を決めている。だから、原発を脱炭素、再エネ転換への一つ手段として、その重要性を声明に入れようとした。しかし、脱原発派のドイツは猛反対。主語を「私たち」(G7全体)ではなく、「原発を利用する国」に限定することにして妥協した。
 また、化石燃料の代表である天然ガスの利用に関しては、その削減のために開発を進めているグリーン水素の利用など、あくまで脱炭素社会の実現に向けた国家戦略の下でなければ容認しないとした。
 さらに再エネの拡大に関しては、洋上風力発電は2030年までに計1.5億キロワット、太陽光発電は計10億キロワット以上とする目標が盛り込まれた。これは、日本の現状から見ると、かなり厳しい目標だ。
 このよう見てくると、日本は「脱炭素に非協力な国」「ゴネてばかりいる国」としか思われていない。さらに、主要メディアが触れていない問題が一つある。それは日本の脱炭素政策である「GX」(Green Transformation:グリーン・トランスフォーメンション)が、言葉として意味不明なため、まったく相手にされなかった点だ。


(つづく)

 

この続きは5月16日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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