連載1001 「温暖化敗戦」確定か!
「GX推進法案」は原発推進でエネ転換は先送り (中1)
(この記事の初出は2023年4月18日)
「GX」は日本の造語で国際的に通用しない
じつは日本政府(とくに経済産業省)は、今回の共同声明に「GX」の二文字を盛り込むことを要望していた。それは、昨年夏に、政府内に「GX実行会議」がつくられ、ここで脱炭素政策を推進していくことになったからだ。
すでに日本は、「2050年カーボンニュートラル 」「温室効果ガス(GHG)46%削減(2013年度比)」を国際公約にしている。「GX実行会議」は、それを具体化、実行化するためのものだった。
その結果、まとめられたのが「GX推進法案」で、今年2月10に閣議決定され、3月30日に衆議院を通過し、現在は参議院で審議中だ。
つまり、政府としてはG7でお墨付きをもらおうとしたのである。
経産省では、「GX」を次のように定義して、これまで周知を計ってきた。
《2050年カーボンニュートラルや、2030年の国としての温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取り組みを経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けた、経済社会システム全体の変革》
しかし、「GX」という言葉に、G7各国は難色を示したのである。なぜなら、これは日本が勝手につくった造語で、英語表現としても疑問符が付くため、国際的に通用しないと判断したからだ。
たしかに、英語では「トランス」という接頭語を「X」で代用することがある。しかし、グリーンに「X」を付けて「GX」とした場合、それがなにを意味するのか英語圏の人間にはわからない。
G7環境サミットに出席したフランスのクリストフ・ベシュ・エコロジー移行担当相は、ブルームバーグの取材に答え、「GXという言葉はイノベーティブだとは思うが、初めはそれが具体的になにを指しているのかはわからなかった」と語っている(ブルームバーグの配信記事より)。
こうして、共同声明文には、「GX」という二文字はなくなり、かろうじて「a green transformation」と一般名詞による表現だけが記されることになった。
原子力関連を含め5つを束ねた“束ね法案”
G7環境サミットで味噌をつけた「GX推進法案」だが、今月中に国会で成立する。岸田文雄首相としては、これを持って5月19日から広島で開かれる「G7広島サミット」で、日本の脱炭素政策をアピールするつもりのようだが、その内容はあまりにひどい。
周回遅れの地球温暖化対策をさらに遅らせてしまうものにしか、私には思えない。いちおう読んでみたが、これでは2050年カーボンニュートラル達成は無理というのが正直なところだ。
「GX推進法案」は、「今後10年の取組み方針と位置付けられるもの」として、次の3点を柱としている。
(1)徹底した省エネ推進
(2)再エネの主力電源化
(3)原子力の活用
となれば、(1)と(2)がメインとなり、それが計画性を持って具体的に規定されるべきだが、そうはなっていない。単に、脱炭素を推進する言葉を並べただけのようにしか思えないのだ。
しかも、この法案は、「原子力基本法」「原子炉等規制法」「電気事業法」「再処理法」「再エネ特措法」の改正案五つを束ねた“束ね法案”で、正式名は「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」と長ったらしい。
そのうえ、よく読めば、(3)の原子力の活用がもっとも強調されている。
つまり、再エネを主力電源として促進するとしながら、原発復活を正当化するための法案としか思えないのである。この法案通どおりに脱炭素化を進めていくと、原発復活にかまけて、再エネ転換の周回遅れは、2周、3周遅れになりかねない。
(つづく)
この続きは5月17日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。