アートのパワー 第12回 ポストダンスの火付け役:Yoshiko Chuma(コレオグラファー、 ダンサー、ザ・スクール・オブ・ハードノックス芸術監督)(大阪出身)(下)

アートのパワー 第12回 ポストダンスの火付け役:Yoshiko Chuma(コレオグラファー、 ダンサー、ザ・スクール・オブ・ハードノックス芸術監督)(大阪出身)(下)

 

中馬芳子は関西出身。1976年ニューヨークに渡航後、ニューヨークを中心としたポストモダンダンスシーンの火付け役として、その地位を確立する一方で、ニューヨークに留まらず世界に活躍の場を広げていった。

アマン、ヨルダン

芳子は探求心の塊で、スロバキア、ブルガリア、ルーマニア、チェコ共和国、ポーランド、ハンガリー、バルト共和国、ボスニア、エジプト、パレスチナ、ヨルダン、ベネズエラ等、40カ国以上の「あまり人が行かない(out of the way)」国々を訪問している。その多くは彼女が「秘密の旅(secret journey)」と呼ぶ紛争地である。芳子がイベントを企画してこれらの国々を訪れるのではない。LINEやWhatsAppのようなSNSアプリで「中馬芳子がやってくる」ことが伝わると、あっという間にクラウドが立ち上がり、芳子が知らぬ間に訪問先の現地でイベントが企画されていく。彼女は、生い立ちや経歴が異なる若い世代のクリエイティブな人々(ダンサーか否かを問わず)と有機的につながる磁石のような存在なのだ。既成のダンスの動きや概念を押し付けるのではなく、1つの専門分野にこだわらず多角的・総合的な方法で自己表現することを奨励する。彼女の価値観は、日本で学生がアメリカの資本主義や植民地主義に反旗を翻した時代に深く根差している。彼女に共感する人々が中馬芳子に群がりイベントを企画・運営する。ザ・スクール・オブ・ハードノックスの設立以来、1,000人以上のダンサー、ミュージシャン、アーティスト、思想家たちと共に活動してきた。

 芳子が住んでいるニューヨークのイーストビレッジは、今では初めて住み始めた頃とは全く変わってしまった。芳子の隣人には、1964年からニューヨークに住んでいるアーティストの宮本和子(1942- )がいる。宮本は長年、ソル・ルウィットのアシスタントを務めていた。そのツテで、芳子は、ニューヨークに来て間もない頃、彼のスタジオを掃除していた。2022年にジャパン・ソサエティーで開催された美術機関としては初めての宮本和子の個展「挑む線(To Perform a Line)」で、芳子は宮本の作品から着想を得たパフォーマンスを会場で行った(これは芳子と宮本の初めてのコラボではない)。ここ数年アルツハイマー型認知症を患っている宮本は車いすに乗って会場にいた。芳子のパフォーマンスは、そんな宮本の車椅子を押しながら会場を移動し、宮本本人、作品、ダンスを一体化するもので、宮本に対する芳子の思いやりがあふれていた。3月には、リビングトン・ストリートにある宮本の128画廊で、芳子がより個人的な宮本作品回顧展を催し、ザ・スクール・オブ・ハードノックスのメンバーとともにパフォーマンスを行った。スペースも小さく、作品も限られ、物理的にも精神的にもより親密で、宮本と芳子の数十年にわたるつながりの強さ、芳子がいかに宮本を大切に思っているかを感じさせるものだった。

Front: Kazuko Miyamoto, Behind: Christopher McMcIntyre, Jason Hwang, Yoshiko Chuma, Robert Black at Japan Society 2022

6月1日から11日まで、ラ・ママ実験劇場(La Mama Experimental Theatre Club)のエレン・スチュワート劇場で「中馬芳子&ザ・スクール・オブ・ハードノックス:ShockWave Delay(衝撃の余震)」が上演 される。この公演は、中馬芳子の45年にわたる活動の集大成であり「重複する20の章が、2時間半にわたって展開される」。”Tipping Utopia(ユートピアの転倒) “は、戦争の影響、ユートピアと戦争の間で揺れ動く生命のサイクルの連続を比ゆ的に見せていく。コンセプチュアル・アーティストであり芸術監督である中馬芳子は、ダンサー、音楽(楽器、ボーカル)、ビデオ映像を含むアート(リアルとバーチャルの両方)を万華鏡のようにコラージュし、彼女の創造する壮大な世界へと導いていく。この作品には、40人のダンサー、ミュージシャン、ビジュアルアーティスト、俳優、作家が参加する予定。

ShockWave Delay (衝撃の余震)
場所:エレン・スチュワート劇場 66 E. 4th St.(bet. Bowery & 2nd Aves.)
時間:6月1日の初演 19時30分 6月2、3、7、10日 19時30分 6月4、11日 14時00分 
*6月11日の公演終了後には、募金オークションが開催される。
入場料:一般40ドル チケット購入はウェブより
https://www.lamama.org/shows/shock-wave-delay-2023

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文/ 中里 スミ(なかざと・すみ)

アクセアサリー・アーティト。アメリカ生活50年、マンハッタン在住歴37年。東京生まれ、ウェストチェスター育ち。カーネギ・メロン大学美術部入学、英文学部卒業、ピッツバーグ大学大学院東洋学部。 業界を問わず同時通訳と翻訳。現代美術に強い関心をもつ。2012年ビーズ・アクセサリー・スタジオ、TOPPI(突飛)NYCを創立。人類とビーズの歴史は絵画よりも遥かに長い。素材、技術、文化、貿易等によって変化して来たビーズの表現の可能性に注目。ビーズ・アクセサリーの作品を独自の文法と語彙をもつ視覚的言語と思い制作している。

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