連載1003 「温暖化敗戦」確定か!
「GX推進法案」は原発推進でエネ転換は先送り (下)
(この記事の初出は2023年4月18日)
「炭素税」を「賦課金」として本格導入
「GX推進法案」では、「カーボンプライシング」(CP:Carbon Pricing)が日本で初めて本格的に導入・制度化された。カーボンプライシングとは、CO2の排出に「価格付け」(プライシング)を行う仕組みだ。
これによって、CO2削減へのインセンティブが生まれ、また、その資金も捻出できる。つまり、温暖化問題は経済問題となり、経済はいわゆる「気候変動経済」(気候変動に対応した経済:climate economics)となる。どんな経済活動も、温暖化阻止、脱炭素化なしには成り立たなくなる。
カーボンプライシングの代表的な手法には、「炭素税」(CT:Carbon Tax)と「排出量取引制度」(ETS :Emissions Trading Scheme)の二つがある。
炭素税は、GHG(温室効果ガス)を使用したことにより排出されるCO2に対して課税することで、CO2に価格を付ける。日本の場合、これを炭素税とは言わず、「地球温暖化対策税」(温対税)と言って、すでに炭素税に準じるものとして実施してきた。
しかし、その課税水準は各国に比べて著しく低く、しかもCO2排出量に応じた税率となっていなかった。炭素税が本格的に導入されると、企業は次の2択のうちどちらかを選ばなければならなくなる。
(1)CO2を排出して税金を払う
(2)CO2排出量削減に取り組んで税金を抑える
つまり、課税水準が低いと、(2)が選択されにくい。
たとえば、スウェーデンの炭素税はCO2排出量1トンあたり119ユーロ(約1万7334円)だが、日本の温対税はなんと289円に過ぎない。 炭素税は、気候変動対策を進めるうえのでの財源となるが、この状況だと財源は十分に確保できない。
そこで、「GX推進法案」では、2028年度から化石燃料輸入事業者に対して、その事業者が輸入などで扱った化石燃料を由来とするCO2の量に応じて、相応の「化石燃料賦課金」がかかるようにした。さらに、2033年度からは、発電事業者に対して、一部有償でCO2排出枠を割り当てたうえで、その量を超える部分に応じて「特定事業者負担金」がかかるようにした。
しかし、2033年度に本格実施開始では、あまりにも遅いと言うほかない。しかも、恒久的な財源となりえる「炭素税」としての導入は見送られ、「賦課金」となった。
いっぽうの「排出量取引制度」はどうかと言うと、これも本格稼働は遅すぎると言うほかない。
韓国や中国よりも遅れた「排出権取引」
排出権取引は、「キャップ・アンド・トレード」(capand trade)とも言われ、「京都議定書」の第17条に定められた京都メカニズムの一つで、国家や企業間でCO2の排出枠を売買する制度。企業や国にCO2の排出枠(限度=キャップ)を設け、その排出枠(余剰排出量や不足排出量)を取引(トレード)する。こうすれば、排出削減に努力している企業や国ほど排出枠を売買できるため、単純に排出量を規制するよりも排出削減につながるとして、すでに世界中で導入されている。
EUは世界に先駆けて「EU ETS」として 2005年から開始し、段階的に改善されて現在にいたっている。アメリカは、連邦レベルでは導入されていないが、州ごとには導入されている。カリフォルニア州がもっとも早く、2013年から開始している。韓国でも2015年に、中国でも2021年から全国レベルで導入・稼働している。
世界銀行の調べによると、2021年4月現在、世界全体で合計64のカーボンプライシングが導入済みで、その内訳は、炭素税が35、排出量取引制度が29とほぼ同数となっている。この二つは単独では効果が薄く、多くの国で二つを組み合わせて実施されている。
日本の場合は、ETS導入が大幅に遅れた。なにしろ、菅内閣が「2050年カーボンニュートラル」を表明するまで、経団連はカーボンプライシングに反対してきたのである。
しかし、もう限界と、2022年9月になってやっと導入に踏み切った。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。