連載1007 日本の「EV敗戦」濃厚か?
上海モーターショーが示す自動車の未来図 (中2)
(この記事の初出は2023年4月25日)
小さな町工場から出発したベンチャー
日本の自動車関係者は、長い間、中国の自動車産業を小馬鹿にし、「中国がわれわれに追いつけるわけがない」と言ってきた。中国のものづくりはすべて「パクリ」から始まっていたので、そう思うのは当然だった。
しかし、中国の全産業は、改革開放後のここ数十年、激しい競争の中を生き抜いてきている。EVにしても、どれほどのベンチャーが立ち上がり、途中で消えていったかわからない。
残念ながら、日本にはこれがなかった。日本は既存産業を守るだけだった。まったく、どちらが資本主義自由経済をやっているのかわからない。
BYDは、もとから車メーカーだったわけではない。始まりは、1995年2月、広東省深?市の従業員約20人の小さな町工場で、当初は電池や携帯電話の部品をつくっていたという。クルマの生産を開始したのは2003年で、最初はガソリン車をつくり、2009年に政府のEV補助金が始まったのと同時にEVの生産・販売を始めた。
つまり、わずか十数年で中国1位、世界2位のEVメーカーになったのである。BYDのEVがヒットしたのは、2013年に発売した富裕層向けのセダン「秦」で、ここから「王朝シリーズ」というブランドが始まった。新車種には中国の歴代王朝の名前が付けられ、これまでSUVの「唐」、「元」、MPV(多目的車)の「宗」、セダン「漢」などが」発売されてきた。
前記した激安価格の小型EVは、若者向けブランドとしてつくられた「海洋」シリーズ。このシリーズで昨年発売されたセダン「海豹」(アザラシ)は大ヒットした。BYDは、この2つのほかに、「騰勢」「仰望」(超高級ブランド)という2つブランド計4つブランドを持っている。
EV販売世界トップ10に中国メーカー5社
いまや、EV分野でのBYDの進撃は止められない。 いまだに、「EVなど本気を出せば追いつける」と言う人間がいるが、その技術力はバカにしたものではない。
日本経済新聞の記事によると、BYDのEV関連特許は中国ばかりか世界中で出願・認可されており、他の自動車メーカーから注目されているという。しかも、BYDの特許をもっとも引用しているのはトヨタで103件。テスラの特許引用146件に迫る規模だという。
BYDは、2023年半ばに欧州主要国で新型EVを発売することを発表し、2022年10月17日、「パリ国際モーターショー」で新型EV 3車種を公開した。このパリのモーターショーを見に行った私の知人は、「BYDはけっして侮れない」と言った。
すでに、BYDは世界14カ国で販売されて、100万台近くを売り上げている。昨年、ノルウェーに投入された王朝シリーズのSUV「唐」の現地での評判は上々という。
英「LMCオートモーティブ」、英「マークラインズ」、独「センターオブモーティブ・マネジメント」などの市場調査データを総合すると、2022年のEV販売トップ10に、なんと中国メーカーは5社もランクインしている。いくら中国が巨大市場とはいえ、日本メーカーがニッサン以外ランクインしていないのは、本当に情けない。
ちなみに、英「マークラインズ」のみのデータでは、ホンダがシェア0.4%で26位、トヨタが0.3%で27位となっている。
次は、各調査会社のデータを基にした、EV販売トップ10である。
1位:米 テスラ、2位:中国 BYD、3位:中国 上海汽車集団、 4位 :独 VW(フォルクスワーゲン・グループ )5位:中国 浙江吉利控股集団、 6位:韓国 現代自動車 7位:ニッサン(仏ルノー・日ニッサン・三菱自動車) 8位: 欧州 ステランティス 9位:中国 奇瑞汽車 10位:中国 広州汽車集団
(つづく)
この続きは5月25日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。