連載1008 日本の「EV敗戦」濃厚か?
上海モーターショーが示す自動車の未来図 (中3)
(この記事の初出は2023年4月25日)
日本と比べものにならないドイツの危機感
中国EVの急拡大に危機感を深めているのは、日本よりドイツである。日本勢は、トヨタのように、PHEV、HEVで圧倒的な優位に立っているだけに、まだ様子見といったところだ。それではダメだと言いたいが、そういう判断なのだから仕方ない。
しかし、ドイツとなると、そうはいかない。
ディーゼルで失敗し、ハイブリットで日本勢に勝てないとみてBEV1本に絞ってゲームチェンジを図ったのに、いざ始めたら中国がリードでは、未来がない。
このドイツの危機感は、次のロイター記事『ドイツ車、中国市場で劣勢 EVが変えた業界勢力図』(4月19日配信、上海/ベルリン)を読むとよくわかる。以下、ポイントを転記する。
《ドイツの自動車メーカーが、18日に開幕した世界有数の自動車展示会「上海国際自動車ショー」に全精力を注いでいる。電気自動車(EV)時代に優位に立つには、中国で成功できるかが勝負の分かれ目になるとみているためだ。今年の上海国際自動車ショーは、フォルクスワーゲン(VW)が取締役会メンバー全員に加えて従業員100人余りを現地入りさせるなどドイツ勢の存在感が際立ち、日本勢やフランス勢と対照的だ。》
《ドイツメーカーは乗用車販売の3分の1を中国に依存しており、ここで敗北した場合の打撃も最も大きい。 独BMIのオリバー・ツィプセ最高経営責任者(CEO)は記者会見で「われわれの車は機能の多くが中国に触発されたものだ」とし、中国市場は世界の潮流の先を行っていると述べた。》
《ロイターが中国汽車工業協会(CAAM)の販売統計をもとに計算したところ、中国EV市場におけるアウディ、BMW、VW、メルセデス・ベンツのドイツメーカー4社の合計シェアは2022年が4.8%で、20年の2.2%から拡大した。しかし、4ブランドのEV販売を全て合わせてもBYDの4分の1にすぎない。》
《 コンサルタント会社カーニーのパートナー、トーマス・ルク氏は「中国市場はドイツメーカーにとって、もう以前のように安定してはいない」と言う。「より速くなるだけでは追いつけない。企業文化を変えるべきだ」》
足元の欧州市場も失いかねないドイツ
ドイツの危機感は中国市場だけではない。足元の欧州市場も中国EVの攻勢に失いかねない状況になっている。BYDはすでに、今年後半には、EVの新車を欧州市場に本格投入することを表明している。
また、バッテリーで断然のシェアを持つ中国メーカーも、欧州進出を加速化させている。たとえば、最大手の「寧徳時代新能源科技」(CATL)はハンガリーのデブレツェンに欧州で2番目となる車載バッテリー工場の建設に入っている。
バッテリーとEVの両方で攻勢をかけられたら、ドイツメーカーは、現状では手も足も出ない。
ロイター記事は次のようなことも書いている。
《ある消息筋によると、中国のEVブランドは価格を引き下げることができるにもかかわらず、中国メーカーによる市場支配を懸念する欧州の政策当局者を動揺させないため、今のところ価格を高く設定しているという。》
《BYDは今週、航続距離300キロを超えるEV「シーガル」を発売。最低価格はわずか1万1000ドルと、欧州の多くのエントリークラスの内燃機関車よりも安い。BYDは今年後半に新たな新型EV「シール」と「ドルフィン」を欧州市場に投入する予定だ。》
このドイツの危機感をなぜ日本も持たないのだろうか?中国EVだけではない。テスラも今後さらに攻勢を強めてくる。テスラは「モデルY」でトヨタのカローラを抜くことを目標としているという。そのため、今後、さらに販売価格を下げてくると言われている。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。