連載1011 「五公五民」は? 本当は「六公四民」!
「国民負担率47.5%」というマヤカシ (上)
(この記事の初出は2023年5月9日)
岸田政権は、広島サミット後に増税を考えていると、消息筋は言っている。そんななか、共同通信の世論調査で防衛増税を80%が支持しないという結果が出たので、「やはり」と納得した。それはそうだ。日本はすでに「超重税国家」になっているからだ。
2月に発表された「国民負担率47.5%」が「五公五民」で「江戸時代か」と騒がれたが、これはウソ。本当は「六公四民」である。このことを私は、新著『日本経済の壁』(MdN新書)で詳述したので、今回は、それをここに公開することにした。
(*かなり長いですが、どうか最後まで読んでください)
現代に復活した江戸時代の「五公五民」
2023年2月21日、財務省が2022年度の「国民負担率」が47.5%になる見込みだと発表すると、SNSは大騒ぎになった。
47.5%はほぼ5割。つまり、所得の半分を国に持っていかれることに、悲鳴と怨念の声が上がったのである。そして、ツイッターでは「五公五民」がトレンド入りした。
「五公五民」は、江戸時代の年貢率を表した言葉で、年貢米の半分を領主が取るので、残りの半分しか農民の手元に残らないことを指す。江戸時代初期には「四公六民」だったが、七代将軍の徳川吉宗によって引き上げられた。これにより、大飢饉に見舞われた享保から天明年間には、「百姓一揆」が続発した。
SNSの投稿では、《令和の時代に五公五民。江戸時代とどっちがマシか》《五公五民だと、一揆起こさないとあかんレペル》《防衛費倍増になると、六公四民か七公三民になりそう》などが、一気に拡散した。
「国民負担率」というのは、国全体の収入である「国民所得」(NI:National Income)に対して、税金や健康保険料などの社会保険負担が、どれくらいの比率になっているかを表した数字。国民負担率は、税金や社会保障負担の合計を、個人や企業が稼いだ国民所得で割ることで求められる。
国民負担率は財務省が毎年公表しているもので、ここ数年ほぼ同じ率であり、2022年になって「五公五民」になったわけではない。
日本の国民負担率は本当に高いのか?
それでは、日本の国民負担率47.5%は、国際的に見て高いのだろうか? 財務省のHPに国民負担率の国際比較のグラフと表がある(「図表21」参照)。
ここには、アメリカ32.4%、英国46.5%、ドイツ54.9%、スウェーデン56.4%、フランス67.1%の5カ国しか示されていないので、以下、主要国をもう少し加えてみる。
韓国40.1%、スペイン47.3%、イタリア60.0%、ノルウェー54.0%、フィンランド61.5%、オランダ54.4% オーストラリア34.5%、カナダ47.5%。
中国、東南アジア諸国、インドに関しては、財務省HPに統計がない。また、各国とも税制も社会保障システムも違うので断じることはできないが、一見では日本はけっして高いとは言えない。とくに、韓国やアメリカなどよりは高いが、欧州諸国(とくに北欧諸国)に比べたら低いのだから、怨念の声が上がるのはおかしいと思える。
しかし、これは大きな間違いで、日本は「五公五民」よりひどい重税国家なのである。
[図表21]国民負担率の国際比較https://foimg.com/00065/1C60pS
なぜなら、国民負担率がいくら高かろうと、それに見合った住民サービスがあれば、重税であっても重税感はなくなる。つまり、社会保障が充実した高福祉国家なら、一概に重税国家とは言えない。その意味で、北欧の国々、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドなどは、重税国家ではあっても国民の不満は少ない。
たとえば、北欧諸国では教育は大学まで無償である。ところが、日本では、国立大学ですら高額の入学金と授業料を取る。あまつさえ、第6章で詳述したように、学生ローンまで組ませて学費を先払いさせている。教育無償化は議論されているだけで実現していない。
これで47.5%は、やはり高いと言わざるをえない。
さらに、もっとカラクリがある。国民負担率というのは日本独特のもので、諸外国はGDP比で負担率を出している。ところが、日本は間接税を省いた国民所得比で算出している。つまり、間接税率の高い欧州諸国は、国民負担率が日本より高めに出てしまうのである。
(つづく)
この続きは6月1日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。