連載1018 2070年人口3割減8700万人の衝撃 じつは実際はもっと深刻! (中2)
(この記事の初出は2023年5月9日)
2030年労働生産性2.5倍アップは無理
人口減は経済成長に大きな影響を与える。人口オーナスになった国が経済成長をしたという例はほぼない。人口減のネガティブな影響を回避して成長するためには、労働生産性を人口減をカバーできるまで引き上げるほかない。
マッキンゼー・アンド・カンパニーは2020年公表の報告書で、日本が2030年に現在の成長率を確保するには、労働生産性を2.5倍にする必要があると指摘している。
どこからどう見ても、2.5倍など無理だろう。
岸田文雄首相は、「次元の異なる少子化対策」を掲げ、「こども家庭庁」と「こども未来戦略会議」を発足させた。ここでは、出生数と子供の人口の急速な減少をなんとかしようと、議論が進んでいる。しかし、名案などあるはずがない。こども家庭庁の渡辺由美子長官は、「少子化のスピードを抑えないと、挽回も厳しい局面に入ってきている」と、毎回、危機感を訴えるだけだ。
人口減は、一朝一夕に解決できる問題とは違う。もし仮に、今後出生率が多少改善したとしても、出産期女性数が大幅に減っているため、出生数は減少を続けていく。また、なにか奇跡でも起こり、出生率が人口を維持するのに必要な2.07以上に急回復したとしても、そのとき生まれた世代が子どもを産み始めるまでの数十年間の人口減少は避けられない。
人口減少が招く地方自治体の崩壊
人口減少社会に対しての楽観論がある。
これまで日本が悩まされてきた通勤地獄、交通渋滞、住宅問題など多くの社会問題が解決されるというのだ。しかし、これはその通りだが、それ以上に圧倒的にデメリットのほうが大きい。
すでに、日本は国民負担率(潜在的)が6割を超える超重税国家だが、今後、税金がさらに増えるのは間違いない。そうして、高齢化が進み、2050年には、現役世代1.3人で1人の高齢者を支える社会が到来する。はたして、こんな社会が本当に成立するだろうか?
それ以前に、生産年齢人口の減少により、国内需要の減少による経済規模の縮小、労働力不足、医療・介護費の増大など社会保障制度の給付と負担のバランスの崩壊が起こるのは確実だ。
すでに、2度にわたる消費税の増税で消費も低迷し、一般庶民の生活は苦しくなっている。地方の過疎化も進み、若者は地方を捨てて都市部に移住したまま地方に戻らない。そのため、多くの地方自治体が機能不全に陥っている。
「消滅可能性都市」が話題になってから、すでに10年になろうとしている。2014年、日本創生会議は、2040年までに政令指定都市の行政区を含む全国1800市区町村のうち、49.8%にあたる896自治体が消滅する可能性が高いという予測を発表した。都道府県別では、青森、岩手、秋田、山形、島根の5県で若年女性人口の減少が8割以上に上るとした。
この傾向は止まるどころか、加速している。ただ、メディアが以前ほど取り上げなくなったので、意識されなくなっただけで、問題は深刻化している。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。