連載1021 サラリーマン社会崩壊!
「人材流出国」「移民輸出国」になったニッポン (上)
(この記事の初出は2023年5月23日)
日本人が日本を捨てる。そんなことが起こるはずがないと思っていた政府や旧世代、そして保守系大手メディアは、いま慌て出している。なぜなら、彼らのアタマのなかでは、いまだに日本は「素晴らしい国」だからだ。
しかし、給料が安いうえに税金が高い。いくら働いても報われないうえ、成果が評価されない国のどこが素晴らしいというのだろう。
そのため、若者から中高年まで、この国を出て行くようになった。この流れはもう止まらないだろう。
寿司職人養成学校に生徒が殺到
5月16日にテレビ朝日(ANN)のニュース番組で放映された『すし職人“出稼ぎ”希望で養成学校殺到 異業種から転職し米で「給料2倍」も』を見て、とうとうこうなったのかと思った。
その内容は、東京の寿司職人の短期養成学校「東京すしアカデミー」に、申し込みが殺到して、年内はキャンセル待ちというもの。受講者はほとんどが、短期間で寿司職人になり、海外で働くことを目指しているというのだ。
印象的だったのは、インタビューに応じた後藤幸子校長がいる教室の片隅に、世界各国から寄せられた求人票が貼られていたこと。それは、たとえばカナダのバンクーバー、オーストラリアのシドニーなどからのもので、いずれも日本よりはるかに高報酬である。
現在、世界的な日本食ブームに乗り、世界中で日本の寿司職人が求められている。そのため、北欧にはまったchikaさんという20代OLが、北欧移住実現のために寿司職人養成学校に通い、それを漫画エッセイにした本がベストセラーになった。
彼女は2014年から、ブログ「週末北欧部」を続け、それが『北欧こじらせ日記』という単行本およびテレビドラマになり、一昨年ついに寿司職人としてフィンランドに移住した。
じつは、私は彼女の本を全部読んでいる。
それで、一言付け加えておくと、フィンランドにかぎらず、世界中で寿司職人の求人があり、それに応募・採用されれば、海外移住が可能であり、それが海外移住のもっともてっとり早い方法の一つということである。
手に職をつけて海外で稼ぎたい
テレ朝の番組で紹介された「東京すしアカデミー」の生徒、卒業生は、みな海外移住希望組かすでに移住を果たした組である。
そのなかの1人、元建築会社営業の加藤愛理さん(27)は、こう語っていた。
「普通に大学に行って、卒業後、建築系の会社の営業をやって、ほぼ5年間働いていました。日本の経済がだんだん悪くなってきたりするなかで、自分で手に職をつけて、とりあえず生きていくだけのお金は稼げるようになりたいなと思い始めて(ここに入りました)」
もう1人、オーストラリア在住10年、現地の和食レストランで働いていたという藤田晋さん(40)は、「向こうでよく寿司を握れるか?」と聞かれたので、一念発起して、本格的に学びにきたという。
さらに、卒業生として、一昨年に渡米して、現在シアトルで寿司職人として働く山田義之さん(49)は、前職は医療機器販売の営業マン。日本にいても?(ウダツ)が上がらないと、脱サラして寿司職人養成学校で学び、その後、国内の寿司店で経験を積んで渡米した。
「こちら(シアトル)に来て日本にいるときの2倍の給料をもらっています」 と、目を輝かせていた。
(了)
この続きは6月15日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。