連載1022 サラリーマン社会崩壊!
「人材流出国」「移民輸出国」になったニッポン (中)
(この記事の初出は2023年5月23日)
ワーホリで海外に出て行く若者が激増
寿司職人は「手に職」組としての海外移住だが、若者にはもっと手軽に海外で働く方法がある。ワーキングホリデー(ワーホリ)だ。この制度を利用していったん海外に出て、そのまま資格を取って海外移住する方法がある。
現在、日本との間でワーキングホリデー制度を結んでいる国は、次の29カ国・地域だ。
オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、韓国、フランス、ドイツ、イギリス、アイルランド、デンマーク、台湾、香港、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、オーストリア、ハンガリー、スペイン、アルゼンチン、チェコ、チリ、アイスランド、リトアニア、スウェーデン、エストニア、オランダ、イタリア、フィンランド、ラトビア。
JNTO(日本政府観光局)が発表している「訪日外客数」(2022年12月推計値)によると、2022年1月~12月の1年間に日本を出国した日本人数は277万1700名に上る。これはコロナ禍だった2021年の1年間が51万2200名だったから、なんと5倍以上の増加だ。
このうちのどれくらいの数が、ワーキングホリデーによる出国者かは正確な統計がない。ただし、オーストラリアの場合は、ワーキングホリデーでのビザ申請数は2021年7月~2022年6月までで前年比2.4倍という統計が公表されている。
さらに、日本ワーキングホリデー協会の無料セミナーには、受講者が殺到している。
円安と賃金安がワーホリを加速させた
私が若いころは、海外に出るには、観光か留学の二つの方法しかなかった。一つは「なんでも見てやろう」と、ほぼバックパッカーとなって“深夜特急”(沢木耕太郎の作品名)として放浪する若者が多かった。もう一つが留学だったが、海外の大学は、英語ができない日本人にとっては語学の面でも金銭面でもハードルが高かった。
それを思うと、ワーキングホリデー制度はすばらしい制度で、これがオーストラリア、ニュージーランド、カナダとの間で開始されたのは1980年。以後、フランス、ドイツ、イギリスなどの欧州諸国から台湾、香港、韓国などに広がり、最近では、スウェーデン、フィンランドなどの北欧諸国にまで広がった。
ただし、ワーキングホリデーを利用して海外に行くのは、「働きながら学ぶため」で、主に「学び」(語学学校、大学)が主目的だった。しかし、最近は違う。ほとんどが「働き」(出稼ぎ)が目的になっている。
なぜなら、ここのところの急激な円安と、日本の賃金安があるからだ。現在(2023年5月23日)、ドル円は再び140円近くまでの円安、ユーロ円は150円近くまでの円安となっている。
また、平均賃金のほうは、OECD加盟国38カ国中24位と低迷し、アメリカの半分、韓国、台湾にも抜かれている。これでは、国内で汗水垂らして働く意味はない。しかも、すでに「五公五民」(実際は「六公六民」)と国民負担率は異常に高く、若者たちは窒息寸前の暮らしを強いられている。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。