連載1029 食料危機は本当なのか? 食料自給率38%を煽る日本政府の欺瞞 (下)
(この記事の初出は2023年5月30日)
台湾有事でシーレーンが遮断される場合
以上のことから、日本で食料危機が起こるとしたら、それは、なんらかの事情で、農産物などの食料を輸入できなくなった場合である。
たとえば、台湾有事で南シナ海と東シナ海の情勢が緊迫し、食料の海上輸入ルートであるシーレーンが使えなくなったとしたらどうだろうか。
日本の農産物輸入先国を見ると、第1位はアメリカで24.5%、続いて第2位は中国で12.4%、以下、 オーストラリア6.8%、タイ6.8%、カナダ6.2%、ブラジル5.1%となっている。この上位6カ国で農産物輸入額の6割以上を占めている。
もし、台湾有事でシーレーンが遮断されると、これらの国からの農産物の輸入はストップしてしまう。もちろん、海産物の輸入もほぼストップする。
とはいっても、それによって私たち国民が飢えるかと言えば、そうとは言い切れない。輸入に依存する食料供給を自国供給に転換すれば、日本はやっていけないこともないからだ。少なくとも、全国民が飢えることはない。
ただし、貧しい食生活になることを覚悟する必要はある。その点で言うと、食が欧米化する以前の戦後への回帰と言ってもいいかも知れない。すなわち、お米と芋などの農産物と、近海の水産物を中心とした食生活である。
フレンチやイタリアンなどの高級レストラから回転寿司まで、食材がなくなるので、多くが潰れる可能性がある。牛肉やトロは高値の花となる。
食料安全保障では日本は世界第9位
ではここで、「日本は食料自給率が低い」という話の続きをしてみたい。
日本人ならほぼ誰もがこのことに不安を抱いている。食料自給率が低いのは、農産物の多くを日本でつくれないからで、日本は食料を輸入に頼らなければやっていけいけないと思っている。たとえば、小麦、大豆はほとんどが輸入に頼っている。政府もメディアも、「日本の食料自給率は38%と低すぎる」と盛んに言っている。
農林水産省は、例年8月に、最新の食料自給率を発表する。最新の2022年8月に発表された2021年度の食料自給率は38%で、前年の37%から1%増えたが、依然として「低すぎる」とメディアは報道した。
こんな報道が続くから、近年、「食料安全保障」が提唱されようになり、自給率アップが提唱されるようになった。
しかし、 「FAO」(Food and Agriculture Organization of the United Nations:国連食料農業機関)のレポート(2020年)によると、世界113カ国の食料安全保障状況で、日本は上位にランクされている。
このポイントは100ポイントを満点とし、食料価格、値ごろ感、食料資源、安全性、品質などの指標で比較したものだ。
食料安全保障ランキング・トップ12(2020)
1、 フィンランド 85.3
2、 アイルランド 83.8
3、 オランダ 79.9
4、 オーストリア 79.4
5、 チェコ 78.6
6、 イギリス 78.5
7、 スウェーデン 78.1
8、 イスラエル 78.0
9、 日本 77.9
10、 スイス 77.7
11、 アメリカ 77.5
12、 カナダ 77.2
なんと、日本は77.9ポイントで世界9位である。小麦などの有数の生産国アメリカ、カナダよりも高い。なぜこんなことになっているのだろうか?
(つづく)
この続きは6月27日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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