連載1031 日本外交が見事にハマった 「グローバルサウス」支援という時代錯誤(上)

連載1031 日本外交が見事にハマった
「グローバルサウス」支援という時代錯誤(上)

(この記事の初出は2023年6月6日)

 近頃、「グローバルサウス、グローバルサウス—–」と本当にうるさい。先のG7広島サミットでは、日本はグローバルサウスを主要テーマにし、インド、ブラジルなどを招待。さらに、今月1日には、政府は外交戦略として、グローバルサウスへのインフラ支援を決定した。こうしたことと合わせるかのように、メディアもグローバルサウスという言葉を、いま頻繁に使っている。
 しかし、グローバルサウスと言われても、ほとんどの人が知らない。知っていても、それがどこを指すのかもわかっていない。
 そして、この点が最大の問題だが、なぜいまグローバルサウスに注目し、日本が率先してグローバルサウスの国々を支援しなければならないのだろうか?
 今回は、この問題を徹底的に考える。

 

途上国をグローバルサウスと言い換え

 日本政府は6月1日、「経協インフラ戦略会議」を首相官邸で開き、2025年までの「インフラシステム海外展開戦略」を改定した。その中身は、相も変わらない新興国・途上国へのインフラ支援の強化である。
 その詳しい内容は、首相官邸HPにアップされているので省くとして、内容を簡単にまとめた朝日新聞記事のタイトルは、こうなっていた。
 『インフラ輸出戦略を改定 「グローバルサウス」への支援を明記』(6月1日配信)
 このように、最近のメディアには、グローバルサウスと言う言葉を頻繁に使っている。
 朝日記事によると、政府の支援対象となるのは、東南アジア、太平洋島嶼、南アジアの3地域で、《東南アジアは「現地に相当程度の産業集積がある」と指摘。「公的金融機関や官民ファンドも連携し、サプライチェーン、デジタル・イノベーションなどへの投資を強化する」というから、日本政府の頭の中にあるグローバルサウスというのは、東南アジア、太平洋島嶼、南アジアの3地域にある国々を指すようだ。
 それにしてもなぜ、政府もメディアも、グローバルサウスという言葉を頻繁に使うようになったのだろうか? 1年前まで、グローバルサウスなどという言葉は、政府文書にも、メディアの記事にも登場したことはなかった。それが、先のG7広島サミットでは、岸田首相から閣僚まで、何度もこの言葉を繰り返した。

G20インドネシアではっきりしたこと

 ネット検索すると、グローバルサウス(global south)は、20世紀半ばからある言葉(概念)だという。
 1960年代、南北問題が盛んだったころ、北半球に多くある先進国を「グローバルノース」とし、南半球に多くある途上国を「グローバルノース」と呼び始めたという。しかし、それが具体的にどの国々を指すのかはあいまいのまま
で、言葉として広まることはなかった。
《グローバルサウスとは、インドやインドネシア、トルコ、南アフリカといった南半球に多いアジアやアフリカなどの新興国・途上国の総称で、主に北半球の先進国と対比して使われる。》(日本経済新聞)
 と説明されているが、たとえばインド自身は、自分たちをグローバルサウスと呼んだことはない。
 外務省の人間が言うには、日本政府がこの言葉を好んで使うようになったのは、昨年11月にインドネシアで開かれたG20からだという。ロシアも参加したこの会議では、中心となるG7が議事をリードできず、ロシアをあえて非難しない国々の意向を大きく取り入れざるをえなかった。ロシアをあえて非難しない国々とは、すなわちグローバルサウスの国々である。
(つづく)

この続きは6月29日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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