連載1033 日本外交が見事にハマった
「グローバルサウス」支援という時代錯誤(下)
(この記事の初出は2023年6月6日)
西側にもロシア側にもつかない両天秤政策
では、このような状況をグローバルサウス側から見てみよう。かつて、途上国・新興国をリードする主要5カ国は「ブリックス」(BRICS、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)と呼ばれていた。このブリックスは、いまもG7と対抗し、勢力を伸ばそうとしている。
となると、ウクライナ戦争は、彼らの国益伸長のために利用するのが、もっとも賢いやり方だ。当然だが、アメリカと覇権戦争に突入した中国はロシア側につき、インドとブラジルは中立を保ってロシア制裁に加わらなかった。
この姿勢に、多くの途上国が従ったのは言うまでもない。
なぜなら、西側(白)とロシア・中国(黒)の間、グレーゾーンにいることで、どちら側からも利益を得られるからだ。
たとえば、ASEAN諸国は、中国と日本を天秤にかけて、援助・投資を受け入れてきた。それに米欧を加えて、3者を競わせることで、ここ20年あまり、経済の大発展を遂げてきた。
なかでも、インドのやり方は、本当に露骨だ。日本とアメリカが「自由で開かれたインド太平洋戦略」(FOIP)を提唱すると、それにホイホイと乗っかり、さらに安全保障では「クアッド」(日本、アメリカ、オーストラリア、イ
ンドの枠組み)に加わった。
それなのに、ロシア産原油を買い叩いて、マージンを乗っけて必要国に転売している。そればかりか、ルーブル・ルピー決済を公認し、ドル経済圏を揺さぶっている。
このようなグローバルサウスとさらに関係を強化し、投資・支援をして行こうというのだから、日本はとんだ「お人好し」ではないだろうか。
実質的には大失敗だったG7広島サミット
G7広島サミットは、G7首脳が広島原爆ドームを訪問視野ことが功を奏して、日本では成功したと思われている。しかし、中身を見ると、これといった成果はなく、どう見ても「失敗」だ。
とくに、日本のグローバルサウス外交は失敗である。
日本政府は、サミット前のG7外相会議で、「グローバルサウス」という言葉を共同声明に挿入しようとした。しかし、アメリカが異議を唱えた。そのため、結局「グローバルサウス」という言葉は使われず、「「パートナー」と言い換えられた。
アメリカは「南北問題を想起させる」と反対し、日本のお人好しぶりに釘を刺したのである。この件に関して、外務省総合外交政策局総務課の中西勇介・首席事務官は「声明をまとめる過程で、この文言(=パートナー)が妥当ということで合意されたと理解している」と述べた。
ウクライナのゼレンレンスキー大統領が、サプライズ訪日したことも、日本のメディアは成功として報道した。しかし、訪日の実質的な成果はなかった。
なぜなら、G7広島サミット初日の5月19日、最初の首脳会談後に発表された声明に、G7のウクライナ支援の金額が明記されなかったからだ。
これは、「G7がウクライナばかりを支援して、グローバルサウスをおろそかにしている」という印象を与えないために配慮した結果だったと伝えられている。
実際のところ、招待参加したブラジルのツーラ大統領は、サミット閉幕後の記者会見で、ウクライナへの武器の供与を続けるバイデン大統領を「和平についてなにも言及していない」と非難した。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。