連載1034 日本外交が見事にハマった
「グローバルサウス」支援という時代錯誤(完)
(この記事の初出は2023年6月6日)
やはり誰も知らないグローバルサウス
このように、日本のグローバルサウス政策が波紋を広げるG7広島サミットのさなか、東京新聞が面白い記事を出した。「グローバルサウスはG7サミットのキーワード?」というタイトルで、この言葉がどう受け止められているか街頭インタビューしたのだ。
以下、一部、引用してみる。
《日本もいまや南国か。各地で30度を超える暑さとなった17日の昼下がり、外国人が多く暮らし、国際色豊かな東京・広尾で、「あなたが思うグローバルサウス」を聞いてみた。
「うーん…」。10秒ほど考えた後、「今度新しくできるビルの名前ですか?」と答えたのはアメリカ人のエリーさん(39)だ。全く聞かない言葉だという。広尾駅近くの有栖川宮記念公園で釣りをしていた金湖亀吉さん(75)も「釣り具メーカーかな」と首をひねった。
20人に聞き、知っていたのは1人だけ。公園でインターナショナルスクールの子どもたちがサッカーをする様子を見守っていた女性(50)は、「最近ニュースでよく聞くわよね」とほほえんだ。「途上国の国々の総称ってイメージだけど、合ってる?」と答えた。
途上国のパキスタン出身のザマンさん(30)は友人と待ち合わせ中だった。ザマンさんに尋ねると「パキスタンはグローバルサウスに入るのか? インドもか?」と逆に質問攻めされた。》
このように、グローバルサウスには、多くの人が無関心である。まして、日本政府が今後、グローバルサウスとの関係を深め、多額の支援・援助していこうとしていることなど、ほぼ誰も知らない。
日本に確固たる“覚悟”“信念”があるのか?
結局、グローバルサウス は、途上国・新興国のことである。それを一括りにして、先進国が率先して援助・支援していくことは、人類全体にとっては必要なことである。
しかし、それをすることは、ウクライナ戦争以後の世界では、世界の分断を大きくすることにつながる。援助・支援によるグロバルサウス へのアプローチが、結局、西側とロシア・中国側の「分捕り合戦」になっているからだ。
日本はいま、そうした面を無視して、支援・援助を積極的にやろうとしている。ならばやはり、どうしても、確固たる“覚悟”“信念”が必要ではないだろうか。
脱ロシア、脱中国を徹底し図り、グローバルサウスに対して西側に加わることを説き伏せられる理念である。「自由」と「人権」、そして「民主主義」がどんなに大事か、日本は彼らに語ることができるのか?民主主義体制の国が少ないグローバルサウスのなかで、日本に本当にそんなことができるのだろうか?
グローバルサウスの国々がアメリカや欧州を嫌うのは、「自由と人権、民主主義」の説教を垂れ、それを受け入れないと援助・支援をしてくれないからだ。
それに対して、ロシアや中国は、そんなことはまったくお構いなしである。
今の日本に他国を支援・援助する力はない
もう一つ、日本のグローバルサウス支援・援助に、危惧すべき点がある。それはもはや日本が先進国ではないことだ。かろうじてG7のメンバーでいるが、1人あたりのGDPはG7で最低、OECD38カ国のなかでは20位(2021年)である。円安のため、いまのドル円は140円だが、これで計算すると、日本の1人あたりのGDPはさらに低下し、OECD 30位を下回ってしまう。
こんな国が、なぜ、海外援助をしなければならないのだろうか?
対インドで考えると、日本とインドのGDPはほとんど差がないところまできている。日本の2022年のGDPはかろうじて世界3位を維持したが、4位のドイツに肉薄されており、5位のインドにはあと数年で抜かされてしまうことは確実である。
この状況で、なにを日本政府はやろうとしているのだろうか? とことん、なにか履き違えているとしか思えない。時代錯誤の政治家の頭の中を変えないかぎり、日本国民はとことん不幸になっていくだろう。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。